夏戦争 | ナノ



空を切る拳


 朝の心地良い風が頬を撫で玲華は静かに瞼を開く。昨日は普段よりもかなり早く寝たからかアラームに頼ることも無く自然と目が覚めていた。心地の良い目覚めに彼女は腕を伸ばし伸びをすると、枕元にあった携帯を開く。――時刻はAM5:00。いつもより多く寝ていたのかと少し驚きながらも柔らかい布団から起き上がると蚊帳の外へと出た。
 縁側から見える景色は昼間と違い白く霞の掛った山々が広がっている。森林の澄んだ空気を胸一杯に吸えば気分も晴れ晴れとして、朝滅多に見る事の出来ない笑顔が玲華の顔には浮かんでいた。

「うわっ!」

 悲鳴が聞えて来たかと思えば次の瞬間には破裂音と共にバイブレーション機能らしい振動が縁側を伝って、玲華の足元を震わせる。彼女も小さく声を洩らし声の方へと身構えるとそこには健二が座り込んでいた。
 彼の周りには沢山のレポート用紙が散らばり、目元には薄らと隈が出来ている。その光景に玲華は彼が何をしていたのか何となく察すると呆れた様に溜息をついた。――彼女にとってレポート用紙と健二は幼い頃から良く見るコンビなのだ。

「健二……また数式解いてたの?」
「あはは……」

 バツが悪そうに目を泳がせる彼を見ながら玲華は散らばったレポート用紙を集め整える。数式解くのも良いけど、程ほどにしなきゃ駄目だよ。と言いながら用紙の束を健二に渡し彼女は苦笑すると彼の手を握り立ち上がらせた。

「でもその顔を見た感じだと解けたみたいだね。おめでとうー」
「ありがとう。……でも何か釈然としないんだよな」
「まあ良いじゃん、それより少しでも良いから寝なきゃ。今日はお手伝いもしなきゃいけないんだから」

 健二の寝室、蚊帳の中に連れて行くと玲華は彼を布団の中に入れる。掛け布団を掛けて軽く寝かし付ける様に健二の背中を叩くと、後で起こしに来てあげるから……おやすみ。と優しく微笑めば彼はたちまち沈む様に眠りについてしまった。健二の寝顔に玲華は口元を緩め、優しく頭を撫でると静かに蚊帳の外へ出て行った。

***

 身支度を済ませた玲華は広大な陣内家の庭をのんびりと歩いていた。昨日出来なかった散歩をしようと思ったからだ。
 あらかたの場所を見て回り自室に戻ろうかと考えていた時、ふと庭の端で見覚えのある小柄な後姿を彼女は見つける。ランニングシャツにハーフパンツ、そして浅黒な肌。見間違う筈もない、OZで知り合った小さな王様。キング・カズマ……もとい佳主馬だ。
 佳主馬が静かに何かの型を構え、鋭い突きを放てば空気が切れる様な音が鳴る。突き、蹴りと出される流れる様な動作に玲華は思わず立ち止り魅入っていた。後ろ回し蹴りが出され不意に彼と彼女の目線が交わる。

「お、おはよう。佳主馬くん」
「っ……おはよう。……いつから見てたの?」

 構えを解き気恥ずかしそうに視線を反らす佳主馬にもう少し見てたかったな、と残念に思いながら玲華は少し前からだよと答えた。佳主馬の元へと歩み寄り額に流れる汗を彼女が持っていたハンカチで拭けば途端に彼の頬は真っ赤になる。その様子が可笑しくて小さく微笑めば、佳主馬は玲華の手を掴み慌てて離させた。

「佳主馬くん凄いね、キング・カズマみたいだった!」
「そう、かな……?」
「うん。凄く格好良かったよ、魅入ちゃった」

 満面の笑みで言う彼女に佳主馬も満更ではなさそうで、嬉しそうな表情を浮かべる。気になっている人にそう褒められれば誰だって悪い気はしないだろう。もう少し見てたかったな、と零す玲華に彼から、じゃあ……もう少し見て行く?と誘いを入れた。その誘いに無邪気に喜ぶ彼女の笑顔が余計に体温を上げて、佳主馬は汗を拭う振りをしながら赤くなる頬を抑える。
 玲華が縁側に座り自分を見ているのを横目で見ると、佳主馬は再び型を構えた。


―――
純情佳主馬は書いていて凄く楽しい(笑)

2010/10/12

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