夏戦争 | ナノ



家族の一員


 ジリジリと光を降り注ぎ熱かった太陽が沈み外も大分暗くなった頃、夕食を知らせに聖美が納戸へ顔を出した。――台所に息子が飛び込んできて玲華を連れ去った後台所内はあの佳主馬が?!とか、玲華ちゃんがあのレイカっていう有名アバターだったの?!と女性陣が騒ぎ収拾がつかなくなってしまった。結局は栄の登場によって事態が終結したのだが、あの後2人はどうなったのかと内心心配していた聖美は先程の態度とは嘘の様に親しげに話す玲華と佳主馬の姿を見て安堵した半面、驚いてもいた。
 聖美の知らせに立ちあがった彼女とは逆に佳主馬は明日行われるタッグバトルの宣伝を兼ねたデモンストレーションがあるから納戸に残ると言う。それを聞いて玲華は申し訳無く感じ謝れば、気にしなくて良いよと普段より柔らかい口調で応える佳主馬に聖美は目を丸くした。やっぱりこの子……と改めて息子の思いを察し思わず頬が緩むのを慌てて引き締め、聖美は玲華を連れ親戚一同が集まる広間へと向かって行った。

「――それじゃ、紹介するね」

 大盛りのイカ刺しを筆頭に広い食卓の上は豪勢な料理に埋め尽くされている。それを囲む様に勢揃いした陣内家の面々が夏希の声で一斉に健二と玲華を凝視した。隣で緊張の余り凍りつく健二の脇をテーブルに下で小突きながら玲華は向かい座る理一へ微笑み、順番に顔を見て行く。女性陣はほぼ見覚えのある人ばかりだった。
 全員の紹介が終わったものの健二は覚えきれていないのか頬を引きつらせ、玲華はこれよりもっと人数が増えると聞いて自身の本家以上に多いなと感心している。

「この子は私の幼馴染であり、親友の玲華・テイラーちゃん。お父さんがイギリス人のハーフで昔はあっちに住んでいたんだよ。……で、この人は小磯健二くん。玲華とは又従兄弟同士なの」

 食卓の面々がそれぞれマイペースにお辞儀をしてくるので2人も頭を下げれば、そこで夕食が始まった。玲華も新鮮なイカ刺しを口に運びその美味しさに驚いていると隣の健二も同じ様に驚いていたらしく、2人の表情に万助が嬉しそうに笑っている。賑やかな食卓に健二も綻ばせ楽しそうにしているので玲華は来て良かったな、と改めて思った。

「いやーそれにしても、大おばあちゃんが良く認めたわよねえ。私なんて未だに苦労してるのに」
「私も私も。連れて来る男、みーんな追い返されたわよ」

 眼鏡を掛けた里香の言葉に派手目の化粧をした直美が同意をする。ちょっと出来すぎじゃなーい?と茶化す直美の言葉が的を得ている為高校生トリオは内心ビクつきながら愛想笑いをしていると、不意に玲華の向かいからジュース瓶が差し出された。差し出してきた人物である理一にお礼を言いながらコップを向けジュースを注いでもらう。

『昔イギリスの方に住んでいたって言ってたけど、やっぱり将来はあちらに住むつもりなの?』

 流暢な英語が理一の口から紡がれ玲華は思わず噴き出しそうになった。彼は彼女の反応に母国語の方が話し易いのかなって思ったんだけど驚かせちゃったかな、と楽しそうに笑っている。

『……いえ、あちらに居たのは父の仕事の都合だっただけなので、年に1度位は戻りますけど戻るつもりは無いですね』
『へえ、じゃあ大学もこっちに?』
『そうですね。でも兄が今名古屋の大学にいるんですけど、卒業したらアメリカに留学に行くので私ももしかしたら行くかもしれません』
「……ねえ何で理一さんも玲華も英語で話してるの?」

 楽しげに笑う玲華と理一の会話に夏希が少し不貞腐れた様に割って入って来た。それに2人はごめんごめんと笑いながら日本語に戻ると突然翔太の怒鳴り声が聞え、玲華達はおろか親戚全員の視線が彼へと集まる。

「俺はなあ、夏希がこーんなちっちゃい頃から知ってんだ!それなのに、この又従兄弟の俺に何の断りもなくなあ!」
「又従兄弟。遠いなー」

 豆粒ほどの大きさを摘まむ様な仕草をする翔太に聖美が笑った。途端に笑い声が広がり、それでも食い下がろうとする翔太を万里子が穏やかな声で制止する。玲華はというと翔太の態度を見ながら、やっぱりお兄ちゃんってこんなものなのかなーと思いながら心配性の兄を思い浮かべ目を細めていた。

「何だっていいの、母さんが認めるなら。――うちはそうやって回ってるの」
「ば、ばあちゃんが認めたって、ホントなのかよ!」
「もちろんだよ」

 納得いかないと言う様な表情で栄をみる翔太に涼しい顔で栄が頷く。黒豆を口に運び、満足げに笑った当主の顔に皆が頷いた。

「健二さんは、うちの立派な婿さんだ。私の目に狂いは無いよ。……勿論、健二さんの親族である玲華さんもうちの立派な家族の一員さ。寧ろ玲華さんもうちにお嫁に来て欲しいくらいだね」

 まさか自分が話に出されるとは思わず玲華の箸が止まった。良いわねえと珍しく賛成する万里子や聖美達に男性陣も意外そうな表情をすれば、みるみると玲華の顔が赤くなり恥ずかしそうに口ごもってしまう。万助の御先祖自慢を聞きながら健二は彼女のグラスに飲み物を注ぎ、優しげに背中を軽く叩いた。


2010/08/31

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