夏戦争 | ナノ



蜂の巣になりやがれ!


 沢山の歓声を受けながらキング・カズマが姿を消した直後、会場はキラキラと煌めく美しい夜の円形アリーナへと変化する。美しいその風景を見つめる健二のアバターが、嬉しそうに笑っているのが分かった。OZのアバターは操作する人間の音声から感情を反映させる。事実、健二はキングの時とはまた別の高揚感を感じていた。美しいこの会場は今から現れる"主役"にとてもあっていると健二は思っている。パズルのピースがピタリと合う様に、神秘的な彼女の姿はこのステージによく栄えていた。
 時間が来たのかアリーナ全体が暗くなると観客である一部のアバター達が主役の名前を叫んで興奮している。

「〈さあ皆休憩は終えたかな?キングの勇姿から熱が冷めてなんかいないよな?〉」

 キングの時と同じアナウサーの問いに皆が合いの手をいれる。その反応に満足そうに笑うアナウサーの声が響き、世界各国の有名企業のロゴが先程とは違い会場の雰囲気に沿うようにシックな色で夜空を輝かせた。

「〈前回の試合から久々の試合だ、この日を待ち望んでいた奴ら少なくない筈だ!俺も楽しみで仕方なかったぜ!――それじゃあ紹介するぜ、我が銃撃アリーナ最強の女王〉」

 今度は全ての電光が落とされ、会場が全てが闇に包まれる。小声で話し合いひしめき合うアリーナに一点のスポットライトが注がれた。

「〈クイーン・レイカだぁぁぁぁぁっ!〉」

 全体が明るくなり舞い降りた主役に会場は一斉に盛り上がりをみせる。白い透き通る様な肌と髪、切れ長の赤い目。そして何よりも目立つツンと立った白い猫耳。鮮やかな刺繍の施されたチャイナ服に身を包み深いスリットから引き締まった美しい足を覗かせて女王は現れた。
 レアアイテムらしいレイカの衣装と腕に掛けられたストールはキラキラと煌めいて、他のアバターとは異色の雰囲気を纏うレイカの姿に健二の隣にいた見ず知らずのアバターが息を飲むのが分かった。その気持ち、分からなくもない。健二も生で初めて見た時隣のアバターと同じく息を飲み、衝撃を覚えたからだ。

「〈今回クイーン・レイカに挑戦してもらうのはキングと同じタイムアタックだ!だがこれはOMCとは違う、OMCGだ!!〉」

 システムの準備が完了したのかいつの間にかレイカの両手には2丁の大型銃が握られており、銃を彼女は一瞥すると観客へとまるでダンスを踊るかの様にスカート部分を少し掴みの恭しく頭を下げた。美しい微笑が背後の拡大画面に写る。

「〈銃は2丁までなら何でもOK、途中での銃装備変更もOKだ!試合時間は3分間――その間にクイーンには10人の上位ランカー達と順番に戦って貰うぜ。KOにした方が勝ち。勿論タイムもナシだ。宜しいかなクイーン?〉」

 同意するようにクイーンが一発銃を発砲した。その瞬間、目の前に現れた長身のアバターにレイカは鋭い視線を向ける。――アナウサーの声と共にバトルが開始された。
 次の瞬間一発の銃声が轟き思わず健二は目を瞑ってしまう。……開いた時には長身のアバターは姿を消していた。

「〈1人目撃破ぁぁぁ!おいおいクイーンの速過ぎる攻撃に、皆追い付いて行けてるかあ?〉」

 つ、付いて行けない。速すぎる……、そう思った人間は幸いな事に健二だけでは無いらしい。バトルを見ながら映像スローモーション再生希望!とか様々な吹き出しが飛び交っていた。中にはお前等の会話で見えねえよ!とブチ切れる輩もいるほどバトルは過熱している。
 相変わらずの速すぎる戦いに必死で携帯画面を追いながら宙を舞い、銃を使い方追い詰めOMCで培った体術で閉めるといった一連の動きに目を奪われていた。華麗な動きに観客は魅入り、相手は翻弄される。そんな戦いに当然の如く健二も魅入っており気が付けば後2人と言うところまで来ていた。

「〈速すぎる、速すぎるぞクイーン!このまま行けば新記録達成だ!!〉」

 アナウサーの声にアリーナは更に過熱する。レイカも小さく頷いたように見えた。画面の右端で刻々と減っていくタイムリミットに健二も思わず携帯を掴む手に力が入る。
 ――レイカは相手によって瞬時に撃つ弾薬の種類を変えてると佐久間から聞いた。戦いながら相手の特化した能力、弱点を見極め変えつつ弱らせ体術で打撃を加える。弾薬はある程度種類はあるがレイカは自らオリジナルを作り、銃もカスタマイズしてるんだと(レイカファンである)佐久間が得意気に話していたのを思いだし健二は改めてクイーンという人物の力に感嘆していた。そして同時に世の中にはこんなに凄い人が居るのにどうして自分は……と思い落ち込む彼を叱咤するように特大の銃声が響く。
 レイカが撃った弾丸を避けようとバックステップする相手に彼女は小さく笑い自身の足をバネにして素早く相手の懐に飛び込むと銃をまるでメリケンサックか何かの様に使いレイカの重い拳が相手の腹にめり込んだ。

「〈9人目クリア!これで最後だ、さあ最後の相手にクイーンは勝てるのかぁぁぁ?!〉」

 最後に現れたアバターは色黒の筋肉質な坊主頭の巨漢。質量と暑苦しさを漂わせるこのアバターはよりよって黒いピチピチの海パン一丁という出で立ちで食い入るようにレイカを見つめていた。その何処か変な雰囲気にレイカも嫌悪感を露にして距離を取っている。健二から離れた観客席で何人かのアバターが坊主アバターを見て騒ぎだし、レイカに対して近付くなと叫び始めた。そのメンバーに話を聞いたのか徐々にそこを中心に広がっていく悲鳴にレイカも思わず観客の方へと一瞬、視線を向けてしまう。――その瞬間だった。

「〈?!〉」

 目を離した隙を狙って坊主はレイカへと突進をする。銃なんてものは坊主の手には何1つない。反応が間に合わず押し倒されその反動で銃を落としてしまったレイカは殴られると思い拳を前に出し受け身の体勢に入った。だが、

「〈おや、挑戦者側攻撃をしないぞ?どういうことだ?!〉」

 レイカの上に馬乗りになったままじっと彼女の顔を見つめたまま動かない坊主にレイカは拳を突き出し連続で攻撃をしていく。――しかし相手は防御に特化したアバターらしくレイカの攻撃はあまり効き目がないようだった。唇を噛み締めもがくレイカに坊主は興奮するよう荒い呼吸を繰り返しにニタニタと笑うと彼女の腕を押さえ、もう片方の手をレイカに近付ける。……アバターだから直接的なものは無いものの、端から見れば無理矢理胸を触られた様に見える光景に観客から悲鳴が上がった。観客からの罵声にもまるで気にしないとでも言うような様子で坊主はレイカの体を我が物顔で触れていく。

 こんな屈辱的な事をされたレイカの表情は苦痛に歪んでいた。度の外れた行為に及ぶアバターにスポンサーはもちろん運営側が止めに入ろうとした刹那――レイカの咆哮がアリーナに響いた。両足を器用にアバターの首に絡め勢い良く後ろへと蹴り落とす。反動で浮いた坊主の体を即座にもう一度蹴りあげ、銃を拾ったレイカは膨大な量の弾丸を使って上空まで飛ばした。防御の特化したアバターでもあれだけの弾丸を喰らえば敵う筈も無く、ボロボロになり上空に力無く浮いている。最後にレイカも飛び上がると足蹴りを鳩尾に食らわし地面に叩き落とした。
 漸くそこで試合終了の合図がなり、レイカの背後に表示されたのは"NEW RECORD!"の文字。どうやら無事記録更新は出来たようだったが、レイカは嫌そうに倒れたアバターを見つめ自身の体を払っていた。暫くして少し落ち着いたのか彼女の心配をして慰めの言葉を掛ける観客にレイカ微笑みながら頭をさげる。
 ……頭を下げたレイカに影が掛かり思わず彼女が顔を上げれば、そこにはキング・カズマが立っていた。意外な人物の登場にレイカは勿論観客も言葉を失っている中、キングは運営者達に押さえ付けられた坊主と対峙し――キングの必殺技であるサマーソルトキックが坊主の頭に見事命中した。


***


「やっぱり変なファンもいるんだなー…」

 携帯画面を少し顔から離し息をついた健二は、先程の試合内容を思い出しレイカを同情をする。微かに聞えて来たアバター達の噂に耳を傾けてみれば、あの坊主は相当なレイカファンだと一部では有名な人物だったらしい。彼女に熱狂的なファンが居ることは知っていたが、まさかあれほどまで行動に移す人物がいるとは思わず、不快感が露になる。
 眉を寄せながらもう1度画面に視線を向けるとそこには更にボロボロになった坊主が運営者達によってアカウントの強制剥奪を受ける所だった。キングはというとレイカを守る様に彼女の前に立って、鋭い眼光を光らせている。その様子に対しての観客達から送られる称賛のコメントに溢れながら映像はそこでレイカによるスポンサー宣伝PVへと変わってしまった。
 イヤホンを外し周りを見渡せば映像見ていたらしき何人かの人達が怒りの表情や渋い顔をしている。

「何なんですかあれは?!」

 電話をしているのか声を荒げ怒鳴る声は、通路を伝い健二の方へと近付いていた。吃驚して振り向けばそこには何処かに電話をしている玲華がいて、一目散に車両から出ていった彼女の姿に健二は空いた口が塞がらないでいた。

「あ、あんなに玲華が怒っているの初めてみた……」


―――
携帯でここまで書けた事に吃驚(笑)
いやしかし書いてて坊主アバターは本当気持ち悪かった。

2010/08/20

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