prologue
05
俺が今世界を旅している事や、過去の春鈴を知っていると言うと春鈴は嬉しそうに笑い、俺に話をねだってきた。 *** 「…刹那君は凄いな。沢山のことを知ってて。…私なんか忘れた物ばかりで刹那君に話してあげれる事なんて無いや」 俺の話を聞き終わるとシルビアはそう言い、悲しそうに笑う。 ……春鈴には、いや、シルビアには悲しい顔をして欲しくない。 「そんな事は無い。話を聞いてくれるだけで俺は嬉しい」 春鈴に近づき、彼女の手を軽く握る。戸惑うような素振りを少し見せ、彼女は弱弱しく俺の手を握り返した。 「有難う、刹那君」 「君」が付くほんの少しの違いにも、今の俺には壁を感じてしまう。 「刹那、でいい」 「……分かった。えっと、ありがと刹那」 そう言った時の春鈴の表情はとても優しくて、不意に「シルビア」と呼びそうになった。 「そうだ、私にもお話できる事がある!」 何か思い出したような表情を浮かべ、嬉しそうに俺を見てくる。 「何だ?」 「あのね、まだ誰にも教えてないんだけど刹那には教えてあげる!」 誰にも言わない?の聞いてくる春鈴に俺は頷くと、俺の手を両手で握ってきた。 「私ね、人に触れると少しだけその人の記憶が見れるの」 「……じゃあ、俺のも見れたのか?」 「うん。聞きたい?」 言いたい事を春鈴に先に言われてしまい思わず、口を噤んでしまった。俺の様子に春鈴は小さく笑う。 「沢山の景色と、……色々な表情をした沢山の私がいた。記憶を失う前の私ってこんなに明るい顔して、……元気にしていたんだ」 悲しそうに苦笑する春鈴に、俺は何も言えなかった。 気まずい雰囲気のまま、王 留美の使いに呼ばれ俺は春鈴との面会を終えてしまった。 ――― やっぱり、刹那には過去のシルビアが大切なんです。 2008/09/15 |
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