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カトレア

84 雷門中vsイプシロン




 気が付いた時には、もう昼間だった。起き上がればと頭がズキズキと痛いし、どうして此処で寝てたんだろうかと思わず眉を寄せた(寝起きのせいか、記憶が曖昧になっている様だった)
 ……少し考えた後時計を見ればとっくに練習が始まっている時間で、アタシは眠気を覚ます為に頬を叩くと、慌てて漫遊寺中へ走り出した。
 ――漫遊寺に着くとグラウンドにはイプシロンがいて(どうやら今日が予告日だったみたいだった)アタシを見た途端、彼らはニヤリとアタシに小さく笑みを向けた。
 その様子にアタシは彼らを睨み返しながら、皆の元へ駆け寄る。皆は怒りながらも安堵した様子で迎えてくれた。
 ……皆の説明と周りの様子を見ると、アタシ達雷門より先に、漫遊寺のサッカー部とイプシロンが戦ったらしい。数分で漫遊寺との試合を終わらせたというイプシロンの圧倒的な力にアタシは口を噤む。
 しかもよりによって、(目金と栗松の怪我で)メンバー不足の為に小暮をスタメンにすると守から聞いた時は思わず、はぁっ?!と声を上げてしまった。(いや、これが普通の反応でしょ?!)

「飛鳥先輩、お願いしますっ!この試合だけで良いんです、小暮君を仲間として認めてあげて下さいっ」

 小暮をスタメンに推薦した人物である春奈ちゃんに深く頭を下げられる。一生懸命な彼女の姿に困ったな―…。と小さく零しながらアタシは頬を掻いた。それから話の主題になっている小暮に視線を向ければ、目が合った途端に怯えた様に体を震わせて背を向けられてしまう。(ア、アタシってそんなに怖いのかな……っ)
 春奈ちゃんに聞えない様に溜息を着き、今度は鬼道君へアタシは視線を向けた。彼も此方の様子を見ていたのか、バチリと直ぐに目が合う。鬼道君が無言で頷いて来たのでアタシも軽く目配せし、春奈ちゃんの肩を叩いた。

「春奈ちゃんがそこまで言うのなら、アタシは信じるよ。彼の事」

 そう言って微笑めば春奈ちゃんの表情は一瞬で明るくなり、お礼と共に抱きついてくる。アタシも抱きしめ返し、頭を撫でれば監督から招集が掛った。……監督の指示でアタシは一之瀬君と共にウィングのポジションに入る事になった。
 ――そのまま試合が開始される。
 3分で終わらせると宣言された事に少し苛立ちを覚えながらアタシはボールを相手陣へと運んで行く。相手ディフェンスを切り抜け、一之瀬君へボールを回せば、彼の必殺技スピニング・シュートが出された。しかしそれをキャプテンであるデザームは仲間に指示を出し、そのシュートを蹴り返してくる。
 ……しかもそのボールはそのまま威力を保ち、此方のゴールへと向かって来た。直ぐさま塔子ちゃんと壁山がディフェンスに入り、アタシもゴールへと走り出そうとすれば相手選手のマークで身動きが取れなくなってしまった。
 2人のお陰で防ぎきったボールは上空へと高く打ち上げられた。それに空かさずマークを振り切った吹雪君が食らい付き、エターナル・ブリザードが放たれる。だが、デザームは必殺技を使う事無く、ボールを受け止めて見せた。周りから同様の声が上がり、悔しそうに吹雪君が顔を歪めた。


2009/11/21


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