イナズマ | ナノ

カトレア

78 ライラック




 吹雪君が新たに仲間に入って初めての模擬練習で彼はワンマンプレーを繰り返し、チームの一部から反感を買ってしまった。
 しかしその一部では吹雪君の並はずれたスピードを認める声も上がり(アタシもその1人だ)、チーム全体に気まずい雰囲気が流れる。
 風丸の発言で模擬練習から吹雪君が普段している、スピードを上げる特訓をする事になった。

(……で、何でアタシもスノボするの?)

 メンバー全員で今朝来たばかりのゲレンデにくると、吹雪君が雷門面子にスノーボードの実力を見せることになる。それは良い、でも何故だか吹雪君からの指名でアタシも彼と一緒に滑る事になってしまった。(どうゆうこったい)

「行くよ、飛鳥さん」
「りょーかい」

 吹雪君が滑りだしたのを見て、アタシは彼の後を付く様に滑り出す。一気に坂を滑り下りれば皆からの歓声が聞えて来た。
 少し滑った所で吹雪君が不意に上に居る白恋中のメンバーに声を掛ける。思わずアタシも視線を向ければ、メンバーの近くには大きな雪玉が置いてあって目を見張った。……そしてこの現状から思い当たった予想に、アタシは顔をひきつらせる。

「まさか……嘘でしょっ?!」
「皆、宜しく!」

 嘘じゃ無かったー!!と心の中で叫び、上から容赦なく転がって来る沢山の雪玉にアタシは半泣きになりながら必死に避けて滑り落ちる。(こんなのスノボじゃないよ!!)
 必死に雪玉を避けるアタシの表情を吹雪君は見ると、面白そうに笑った。

 すると突然雪玉が何かにぶつかり、大きな音を立てて気に積もった雪が雪崩れて来る。その音に吹雪君が突然止まり蹲ったので、アタシは雪から彼を守る様にアタシは吹雪君の元に行くと背後から覆う様に彼を抱きしめた。
 幸い雪は少しアタシに降りかかっただけで、大事には至らなかった。

「大丈夫っ、吹雪君?!」
「うっ……ア、ツ……ヤッ」

 震える吹雪君の正面に来ると、すがる様に彼が抱きついて来る。アタシも安心させようと強く抱きしめ、大丈夫だよ。と何度も優しく言い聞かせた。
 ……心配したメンバーが此方に来る頃には吹雪君も漸く落ち着き、元に戻っていてアタシはホッと息を付く。
 アタシから離れた吹雪君は恥ずかしそうに頬を染めて立ち上がると、小さくお礼を言ってくれる。アタシもどういたしまして。と微笑めば、そのまますぐに特訓が再開された。


***


「勝負……ねぇ、」

 あれから(スノボの練習をを取り入れた)特訓が数日間続いた。漸く皆のスピードに対する感覚も慣れて、様になって来た時突然染岡が吹雪君にどちらが雷門のエースストライカーか決める勝負を申し込んだのだ。(ホント、男子って勝負事好きだよねぇ……)
 そのまま、どちらが早くゴールを決めるかという試合が開始される事になる。最初は吹雪君がボールを奪うが、染岡も負けじと吹雪君に食らいて行く。その気迫にメンバー達は息をのんだ。

「……あっ、」

 吹雪君がボールを蹴り上げようとしたその方向にいたリスにアタシは小さく声を洩らした。あのままではボールに当たって怪我をしてしまう、そう思った途端に吹雪君も気が付いたのか動きが止まってしまった。
 その隙を突いて染岡はボールを奪うと、ゴールを決める。勝敗が付いた途端、勝者である染岡の元にメンバーが集まった。
 アタシはその様子を見ながら座り込む吹雪君の元に歩み寄ると、彼に手を差し伸べる。

「お疲れ、吹雪君」
「……飛鳥さん、僕負けちゃった」

 あはは、と笑って吹雪君はアタシの手を取った。そのまま腕を引っ張り、彼を起き上らせるとアタシは首を振る。

「皆は気が付かなかったみたいだけど……、吹雪君リスを庇ったから、シュートを打たなかったんでしょ?」

 吹雪君は優しいんだね。と微笑んでアタシは彼の頭を撫でた。吹雪君は驚いた様に目を見開くと、不意にマフラーに手を触れる。その瞬間アタシの手が払われ、んな事知らねぇよ!!ぶっきらぼうに言うとそっぽを向いてしまった。(……吹雪君の顔が赤かった)
 吹雪君って面白いな。と思いながらアタシは笑みを浮かべると、染岡からこっちに来いよ!!と声を掛けられてアタシは今朝みたいに吹雪君の手を取ると(強引に)メンバーの元へ引っ張って行った。 


―――
飛鳥さんが姉さん気質になりつつある……(笑)

2009/11/07


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