イナズマ | ナノ

カトレア

70 監督の意見




 ――奈良シカテレビに着いたアタシ達は再びジェミニストームも試合をする事になった。新しく仲間に入った塔子ちゃんは目金の代わりに入り、アタシは今まで通りMFに戻る。
 試合が開始されるが、やはり相手の圧倒的な力にアタシ達は押されつつあった。しかし少し時間が経過した時、鬼道君が何かに気が付いたのか相手からボールを奪った。メンバーから驚きの声が上がる。
 鬼道君から修也にボールが回され、ファイア・トルネードが放たれた。シュートが決まったと皆が思った時ボールは規道外れ、ゴールから外れてしまった。……その後も修也はシュートを失敗し、修也が連続でシュートを外すなんて、と皆から困惑の表情を浮かべる。
 そのまま13対0と圧倒的な点数差で前半は終了してしまった。

「……修也?」

 1人輪から外れる修也にアタシは駆け寄る。大丈夫?と首を傾げれば、何でもない。と顔を俯いてしまった。
 修也と目線が合う様にアタシはしゃがみ込み、彼の手を強く握る。

「修也、大丈夫だから。……アタシも、皆もいる。だから安心して」

 修也に微笑みを向ければ辛そうに顔を歪ませて、手を握り返して来る。――そこで瞳子監督から守以外の全ての選手が上がる様に、指示を出してきた。その指示に不満げな表情を浮かべながらフィールドに戻る皆の後に続いて、アタシは修也の手を引いてポジションに戻って行った。


***


「ごめんよ、みんな。アタシが一緒に戦おうなんて言わなきゃ、こんな事にはならなかったんだ……っ、」

 ――結局試合ではアタシ達は何もできず32対0と完封負けしてしまった。全員で攻めに入った事で簡単にボールを奪われ、ゴールを決められる。……それの繰り返し。
 試合が終了した時には守はボロボロで、アタシ達は何もすることが出来なかった。
 今は手当てを受けている守を皆でキャラバンの外で待っている。皆、悔しそうな表情を浮かべ唇を噛みしめていた。

「塔子ちゃんのせいじゃないよ、アタシ達の……力が足りなかっただけ」

 塔子ちゃんの背中を優しく叩くと、皆も頷いて来る。守は大丈夫だろうか、と皆が口ぐちに言葉に洩らすと染岡が悔しそうに木を殴りつけた。

「何なんだよ、監督のあの指示は?!」

 怒りで興奮する染岡を鬼道君は窘める。その姿勢が気に入らないのか今度は鬼道くんに染岡は食って掛った。
 アタシも止めろ、という意味で染岡を睨みつければ、納得がいかないと言った表情ながらも染岡は口を噤んだ。

「監督も行っていた通り、前半を終えた時点で俺達の体力は限界に達していた。……もし後半、あのまま俺の作戦で試合を続けていたら、」
「……アタシ達も只の怪我では済まなかった筈だよ?」
「っ、俺達もマックスや半田達みたいに病院行き?!」
「じゃあ監督は、俺達を守る為に……?」

 風丸達も気付いた様で、目を見開いていた。その予想にアタシと鬼道君は頷くと皆が唖然とした表情を浮かべる。その時キャラバンの扉が開き、守が出てきた。皆が心配そうに守の元に駆け寄る。

「監督は奴等を使って、特訓してくれたんだ!奴等のシュートを受け止めるには、実際受けながら特訓するのが一番の特訓だからな!!」

 お陰で最後の最後でちょっとだけ奴等のシュートが見えた!と守は嬉しそうに言って来た。……つまり監督は今日の試合を捨てて、アタシ達の身を守ったと同時に、守のキーパー練習までさせた訳だ。
 漸く皆にそれが伝わり、アタシは安堵して小さく息をついた。メンバーが監督に対する意識が変わった所で、丁度その本人が現れる。
 監督は来て早々修也に顔を向けると、チームを抜ける様に言って来た。皆が驚きで声が出ない中、修也は何も言わず出て行ってしまう。修也に追いつこうと守は走り出すと、アタシも少し遅れて走り出した。


2009/10/30


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