イナズマ | ナノ

カトレア

63 勝ちたい!!




 ――あの後から世宇子の猛攻が始まり、マックスと栗松、交代で入った宍戸が負傷て試合に出れなくなってしまった。
 しかもFWである染岡も相手DFのメガ・クェイクに負傷をして、目金と選手交代をする。しかし、目金も直ぐに相手の餌食に遭い、退場してしまった。
 ……選手枠はこれで無くなり、アタシ達は1人足りない10人で戦わなくては行けなくなる。しかも相手の技による怪我で残っているメンバーもボロボロだ。絶対絶命なこの状況にアタシは倒れながらも、拳を握りしめる。

(どうにかしないと、この状況を打開できる、何かが……!!)

 もう1点入れられ0対3となり、守以外のアタシ達メンバーは成すすべなく全員崩れ落ちている。グッと唇を噛みしめれば、唇が切れ血が流れてきた。

(点が欲しい、皆と一緒に……勝ちたいっ!!)

 “勝ちたい”そう心から思った時、不意にヒロト君の言葉を思い出した。

「……飛鳥ちゃん、もし試合が不利になってどうしても点が欲しい時、自分の感情に素直になってみて」

(自分の感情に、素直になる……、)

 今のアタシに取って一番求めている事は、……勝つ事。1点でも良い、何かこの状況を打開出来る何かが。……もしかしてヒロト君は、アレを出せって事が言いたかったの?

(そういう……事ね。分かったよヒロト君、貴方が言いたかった事)

 一度アタシは瞼を閉じ、意識を無にする。……そう、前みたいにアタシ自身が“本能”で動く様に。

「ディバイン・アロー!!」

 相手の打ったシュートが守の元に向かう。その瞬間アタシは目を開き、彼の元に走り出した。……体が自然に動き、痛みは感じなかった。

「……っ、させるかよっ!!レッド・スプライト!!」
「飛鳥……っ?!」

 ボールを防ぎ、驚く世宇子を余所にアタシは1人で相手陣へと駆け上がる。反応に遅れたDFだったが、直ぐにメガ・クェイクを仕掛けて来た。
 地面が盛り上がり、アタシは大きく投げ飛ばされる。だが、

「こんな事で、負けるか……“雷鳥”の名を馬鹿にするな!!」

 空中で受け身を取り、アタシは再びボールをキープする。世宇子の選手と観客が驚きで声を上げるのが聞えた。
 ――ゴール前まで来ると、以前木戸川で出したあの技を出そうとボールを宙へ蹴り上げる。アタシも舞いあがり、電気の塊と化したボールを蹴り落とした。強大な雷鳥がポセイドンを襲う。

「ツナミ・ウォール!!」

 ゴール前へ現れた波の壁に雷鳥は動ずる事無く一直線に向かった。……激しいぶつかり合いが起き、壁を打ち破るとポセイドンごと雷鳥はボールへと突き刺さる。得点先取のホイッスルが鳴った。大きな歓声が湧く。

「< ゴール!!雷鳥選手、自身の名に恥じぬミラクルシュートを出しました!!雷門、遂に世宇子から1点をもぎ取ったぁぁぁぁ!! >」
「やった……やっと点取れ……たっ、」

 声を上げようとした時に、全身に激痛が走った。息も切れ、眩暈がする。そのままアタシは倒れてしまった。……そこで前半終了のホイッスルが鳴る。

『飛鳥っ(飛鳥先輩)!!』

 皆が心配そうに集まって来てアタシを抱き起こしてくれた。そのままベンチへと運んでくれ、寝かせられる。

「飛鳥っ、どうして無茶した?!」

 皆が心配する中で修也が声を荒げた。……息が切れて、言葉が上手く出ない。遠くで夏未ちゃんが世宇子の力の源は“神のアクア”という体力増強ドリンクだと言っていのご聞えた。

「だって、アタシも……皆と、勝ちたかったんだもん……っ」

 ポロポロと涙が零れ、アタシは声を荒げた。皆も辛そうに顔を俯かせる。

「アタシ、勝ちたい。……卑怯な手を使わないで頑張って来た皆の、力になりたかった……!!」
「だからって、お前が傷つくのは可笑しいだろ……っ」

 そう言って修也に強く抱きしめられた。アタシも修也の肩に頭を乗せ、彼のユニフォームを握った。

「……雷鳥、後半出れるか?」

 監督に言われ、修也の制止を払ってアタシは頷く。目に溜まった涙を拭い、皆の顔を見た。

「アタシも最後まで戦う。……アタシ達が勝って、世宇子の間違いを示さなくちゃ」

 そう言うと皆が力強く頷いてくれた。守が手を差し伸べて修也と一緒に起き上らせてくれる。

「飛鳥が入れてくれた1点、無駄にしたら駄目だ! 絶対俺達が勝つんだ!!」

 守の声に監督が頷き、行って来い!と指示を出した。それにアタシ達は大きな声で返事を返し、フィールドへ駆けだした。


―――
結構長くなったなぁ……。
雷鳥さん今までキチンと書けませんでしたが、ホントは強いんですよ!

2009/10/29


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