カトレア
45 不器用な2人
「円堂、……本気で“無限の壁”を突き崩すつもりか?」 修也の問いに守は力強く頷いた。――次の相手校である千羽山中には“無限の壁”という必殺技があった。情報によるとその技のお陰で全国大会まで無失点で登りつめたらしい。 その技を破るためにも特訓を繰り返していたアタシ達だけど……どうも上手く行かないのだ。個人個人のタイミングがバラバラでパスはおろか、“ドラゴン・トルネード”と“Tバージョン”も上手く行かなくなってしまった。 こんな状況で本当に大丈夫だろうか、そんな風に疑問を持ち始めるのも不思議ではないと思う。……それに先日世宇子中に敗退した帝国、鬼道君の事も心配だ。それもあってか中々アタシ自身も集中出来ないでいた。 「今のアタシ達で大丈夫なのかな……、」 不意に零れた言葉に守も少し俯くと、笑顔でアタシに笑ってくる。(……何か、アタシらしくないな) 「大丈夫さ、俺達には“炎の風見鳥”と“イナズマ1号”がある!」 「……決められれば、の話だがな」 「気合いがあれば何でも出来るさ!!」 守の言葉に思わずそこに居たメンバーは溜息を付いてしまった。それから秋ちゃんが何か思いついたのか、土門君に話しかける。 「“トライ・ペガサス”だったらどうかな?」 「あぁ、俺達の“トライ・ペガサス”か!あれなら……」 土門君と秋ちゃんの笑みに守が食いついた。土門君の説明によると彼と秋ちゃん、(今は亡き)一之瀬君がアメリカに居た頃に編み出した3人技らしい。 言葉だと説明し辛い技らしくアタシ達は地面にしゃがみ込むと、土門君の説明を聞き始めた。 *** (ったく、修也何処行ったんだよー…) 何も言わず途中で抜けて行ってしまい、部活も終わっても帰って来ない修也を探す為アタシは(修也の荷物を持って)道を歩いていた。 あちこち回って漸く見つけた場所はいつも練習をしている河川敷で、そこには鬼道君と春奈ちゃんもいる。鬼道君と修也は互いにボールを蹴り合いしていて、その迫力にアタシは少し鳥肌が経った。 「春奈ちゃん、」 「飛鳥先輩!お兄ちゃんと豪炎寺先輩が……っ」 泣きそうな表情を浮かべる春奈ちゃんに大丈夫だよ。とアタシは彼女の頭を撫でる。 「修也も鬼道君も……不器用だから。あんな風にしか本音で言えないんだよ」 男子ってそんなもんだよ。っとアタシは笑った。春奈ちゃんは納得できないと言った様子で彼らを見ている。 ――修也の“ファイア・トルネード”が決まり、どうやら決着がついたらしい。アタシは2人に声を掛け手を振った。修也が此方に駆け寄って来る。 「修也帰って来ないから、荷物持って来たよ」 一緒に帰ろ。と言ってジャージの上着と制服の入ったエナメルを渡せば、修也はお礼を言って頷いて来た。 鬼道君と春奈ちゃんにもアタシは笑いかけ、手を振る。先に歩き出した修也に追いつく為にアタシは走り出した。 「……悪かったな」 隣に着いた瞬間言われた言葉に、一瞬修也が何に対して言っているのか分からなくて無言になる。それから直ぐにアタシは嗚呼ー。と言葉を洩らした。 「良いよー別に。今日一緒にご飯食べるんだし。……それに言いたい事言えて満足したでしょ?」 ニヤリと笑みを向ければ修也は一瞬目を見開きアタシを見て来る。だけど直ぐにふっと目を細め、デコピンをして来た(ちょ、痛いな!) 文句を言うアタシに修也は可笑しそうに笑って不意にアタシの手を握って来る。 アタシも修也の手を握り返し、小さく笑った。 2009/10/18 |
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