カトレア
23 信じてるから
――野生中のキックオフで後半が始まった。アタシも少林寺と交代し、試合に参加をしている。 開始早々に出されたスネーク・ショットにも円堂君は手の痛みに耐え跳ね返すと、壁山の元へとボールを蹴りあげた。……だが、壁山は力無くフィールドに膝をつき、動こうとしない。 ボールが奪われ円堂君の元に行こうとする直前、アタシは円堂君の前へ立ちふさがった。 「レッド・スプライト!!」 「飛鳥っ?!」 ボールを弾き返し、アタシは再び壁山へボールをパスをする。それを野生中に奪われ、またアタシが弾き返す。それの繰り返し。 (ちょっと……やばい、かも) 元々アタシはFW専門だ。この技も前のチームをフォローする為に編み出した技。そう何回も出せる技では無い。多分ソックスの下はかなりヤバい事になっているのだろう。……でも、そんなことも言っていられない。 「レッド・スプライト……!!」 「飛鳥、もう止めろ!俺の事は良いから!!」 パスを回し、思わず崩れ落ちたアタシに円堂君が叫んだ。アタシは振り返り思いっきり睨みつける。 「絶対、やだ!!……円堂君は壁山を信じるって言った。だからアタシも壁山を信じてパスを回している。それに円堂君もキツイんでしょ?仲間を助けるのは当たり前!」 そう叫べば周りも頷き、皆の士気も上がる。ゾーン・ディフェンスに皆が回り、シュートを阻止する。 ――皆のその姿に壁山は拳を握り、立ちあがった。アタシも自然と笑みがこぼれる。 「「壁山ー!!」」 今度は円堂君が受け止めたボールをアタシが蹴り上げた。円堂君と声が重なる。 「これが俺の……イナズマ落とし!!」 壁山と修也が飛び上がり、壁山は腹で修也を受け止めた。修也から蹴りだされたボールは一撃の稲妻となって、ゴールに振り落ちた。 「雷門中1点先制!!」 そこで試合終了のホイッスルが鳴る。――勝ったのはアタシ達、雷門中だ。 安心して座り込んだアタシに、修也が走り寄って来る。 「……修也?」 どうしたの、と声を掛け様とすると、いきなり彼はしゃがみ込み後ろを向いた。 「足、痛いんだろ?」 「大丈夫だよ、修也も疲れてる「飛鳥、」 容赦なく言われ、アタシは渋々修也の背中に体を預けた。――そう、所謂おんぶを今してもらっている。何ともなさそうに彼は立ち上がると、皆の元に歩き出す。 「……ごめんね、疲れてるのに」 「良いさ、俺が好きでやってる訳だし。……後でちゃんとマネージャーに診て貰えよ?」 優しい声にアタシは小さく言うと、修也の肩に顔を乗せた。……修也も小さく、笑ってくれた気がする。 *** 「全く、円堂君も飛鳥ちゃんも無理し過ぎ!」 文句を言いながらも秋ちゃんは凄く嬉しそうにアタシの足に包帯を巻いていた。アタシは壁山に顔を向け、笑いかけると壁山も笑みを返してハイタッチをする。 周りのメンバーもニコニコとして、とても嬉しそうだ。赤く腫れた円堂君の手に突然氷が当てられ、彼は小さく悲鳴を上げた。 「えっ……?」 視線の先には夏未ちゃんが居て、皆が不思議そうに彼女を見る。彼女の表情もとても嬉しそうだった。 「サッカー何かに此処まで情熱を掛けるなんて……馬鹿ね」 そう言って去っていく夏未ちゃんの姿に秋ちゃんとアタシは顔を見合わせて、苦笑した。――次の日、彼女がサッカー部のマネージャーになることなんて皆は知らない。一体どんな表情を皆するのかなぁ。と考えていたら、思わずと笑みがこぼれていた。 ――― この回の壁山は凄くかっこいいと思う。 2009/10/09 |
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