イナズマ | ナノ


スピカさんとバーンの良く解らないお話。
―――


「スピカは、さ」
「何?」

 何気無く目の前でパソコンと格闘をしていた人物の名前を呼べば、視線を此方に向けないで淡白な返事が帰ってきた。(……本当、お前らしいよ)なのに俺は、アイツに対して掛ける言葉が出なかった。否、無かった。冒頭で言った通り本当に何気無く声を掛けたのだ。大して意味はない。只、この空間に2人だけで、しかも無言のこの雰囲気が俺に取って居心地が悪かったのかもしれない。俺自身静かな雰囲気より賑やかな方が性になって居ることは自負している。だが目的の遂行している時に邪魔が入る事を嫌うスピカに取って、そんな筋の通らない理由では許されないんだろうな。と目に見える予想に全く、何年スピカとつるんでいれば学習するんだ俺は。と内心ウンザリしていると、訝しげに俺を見るスピカと目が合った。

「……何落ち込んでんの」

 バーンの癖にきもちわるっ。と隠すこと無く顔をしかめ、明日は雨だな。と身震いするスピカに俺は思わず、反論の声をあげる。ぎゃあぎゃあと先ほどの静けさとは程遠い喧しい俺たちの口喧嘩が響いた。

「ったく、何よ!ヤケに大人しいから心配してあげたアタシが馬鹿だったわ!」
「んだと、この野郎……って、今なって言った?」

 スピカが、俺を心配してた?予想外の言葉をアイツの口から聞いて言い返そうとしていた言葉がすっかり頭から飛んでしまった。スピカはというと苦虫を潰した様な表情を浮かべると勢い良くパソコンの畳み(バシンっと嫌な音がした)、蹴るように椅子から立ち上がるとポケットから何かを取り出して豪速球で俺に向かって投げてきた。余りの早さに座っていた俺はそのまま頭で受けとるような形でぶつけられて弾き帰ってきたそれを手にする。(物凄く痛かった)
 手の中に合ったのは棒の付いた丸い飴だった……もの。アイツの投げた威力と俺の石頭のせいでか、飴は見事に真っ二つに割れて包みの中で棒と飴で3つに分離していた。その哀れな飴を掌で弄びながらもう片方の手で未だに痛む頭を撫でていると、スピカは可笑しそうに小さく笑って自分の2つに結った髪を払った。(謂わばアイツの癖ってヤツだ)普段から感情を押さえているアイツなりの、感情を表し出すスイッチみたいな(ものと少なくとも俺を含め3人は認知している)その動作を見て俺は自然と安堵を覚える。怒っていなかった、と認識出来たときには頬が緩んでいた。

「それ舐めたら、トレニングルーム来て」

 久しぶりに2人だけで練習しようよ。そう言ったスピカの表情はいつにもなく幼さが残った笑顔だった。その笑顔に俺も同意の意味で頷くと、割れた飴を棒毎口へ放り込んで立ち上がった。

(あれは昔見た、アイツの笑顔だ)


2010/01/06

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