カトレア
02 雷のストライカー
――周りがとても騒がしかった。人混みの煩さとは違う、何かに皆が一斉に熱狂するようなそんな声。 煩いな、これじゃ寝れないじゃないか。とアタシは嫌々重たい瞼を開く。そこには…… (えっ、これは、どういう……こと?) 「おっ、雷鳥。そろそろか?」 目の前に広がったのは観戦席一杯に埋まった観客と、スポットライトに照らされたサッカー場だった。正に試合中と行った所だろうか、会場全体の熱気が凄まじい。 その状況に全く頭が付いて行かず呆けていると隣に座っていたのだろう、知らないオジサンが期待したような目で此方を見て来る。 しかもオジサンはアタシの事を“雷鳥”と呼んだ。っていうかどんな名前なんだよ……アタシには“飛鳥”という一端の名前がある。反応に困ってオジサンから周りに視線を見回すと、観客から雷鳥行けー!!とかいう叫び声諸々が聞えて来た。 「飛鳥、シュート決めてやれよ!」 フィールドから1人のサッカー選手に声を掛けられる。アタシの名前呼んでるってことは、もしかして“雷鳥”っていうのはアタシの苗字……? 「雷鳥、後半5分経ったんだ。そろそろ出てもいいだろう?」 またオジサンに声を掛けられ、改めてアタシは自身の服を見て驚愕した。……さっきの声を掛けてきた選手と同じユニフォームを着ていたのだ。この様子を見ると否応無しにアタシはこの試合に出なくては行けなさそうだった。 ……でも、サッカー未経験者であるアタシが出来るのだろうか。そんな事を考えながらアタシはグルグルと思考を巡らせる。うぅ、皆からの視線が痛い。 「雷鳥、いい加減に「分かっている。……選手交代をしてくれ、監督」 自然と言葉が口から出ていた。オジサン……監督はニヤリと笑うと選手交代の指示を出した。周りからわぁぁっ、と歓声が広がる。何故だかアタシはさっきみたいな緊張はしていなくて、悠然とフィールドに向かって歩いていた。(もう、勝手に動いてくれる体とこの感覚に任せた方が良い様な気がしてきた) 「< おおっと、此処で旭中選手交代に入りました!! 新しい選手は“雷のストライカー”雷鳥 飛鳥だぁぁぁ!! >」 実況者テンション高いなぁ、とか思いながらアタシはFWのポジションに入る。同じチームのFWとニヤリとアタシは笑い掛けた。 ――そのままゲームが再開される。 何故だかアタシが入った途端、チームの士気が上がった気がした。ボールが上手具合に繋がるのだ。あっという間にゴール手前にボールが着き、仲間のFWからボールがパスされる。 「飛鳥、行けー!!」 観客の声とチームメンバーの声。この高揚感がとても心地良い。アタシはパスされたボールを一気に上空へ蹴り上げる。それと同時にアタシも宙へと飛びあがった。 「サンダー・トルネード!!」 回転するアタシの周りに激しい雷がスパークし、アタシはボールを蹴りだした。雷を纏った強烈なシュートがゴールへと一直線に向かっていく。そう……まるで豪炎寺君の“ファイア・トルネード”の雷版といった所だろうか。っていうか、もしかしてこれ……超次元サッカー?! 「< 雷鳥の必殺技、“サンダー・トルネード”が見事に入ったぁぁぁ!! >」 実況者のアナウンスとタイミング良く、試合終了のホイッスルがフィールドに響いた。勝ったのは……アタシ達のチームだ。 2009/10/05 |