text | ナノ
(Tumblr元画像:http://ginga-utage309.tumblr.com/post/41117240633)
一人で飲むホットココアほど美味しくないものは無い、というのは、私の持論であったわけだけれど。
本来なら、ここにはもう一人分のココアが置いてあったはずだった。
しんしんと降り積もる雪は世界の音を吸い込んで、気味の悪いほどの静寂があたりを支配していた。雪は地面に落ちたあともふつふつと膨らんでいくように見えて、白で覆われた窓の外の景色は、光を放っていて妙に眩しかった。
じりりと、黒電話がのベルが響く。小さな家なので、玄関に置いてあるその音は、リビングの窓際にまでよく聞こえていた。しばらく無視していると、ベルが切れて、また無音が帰ってくる。じりりん。無視。じりり。無視。
「都合が良すぎるわ」
黒電話自身が諦めた様に黙り込んで、私が思わず呟いた言葉は、ガラスから伝わる冷気に凍り付くようで。
どんどん、と、玄関の木戸を叩く音が下のは、そんな時だった。これも同じ様に無視していると、諦めたように音が止む。だから、都合が良すぎるの。小さくため息をついて、俯き加減の顔を上げると、窓の向こうと目が合った。
「… …?」
ぱくぱく動く口と、情けないくらい左右に下がった眉。睨みつけてやると、顔の前で両手を会わせて頭を下げてくる。肩と頭に乗っていた雪が、ぽそりと落ちていった。
「い・や・よ」
声はきっと届かないけれども、ゆっくりと口を動かして一言吐き捨てた。美味しくないホットココアを美味しそうに飲み干すところを見せつけてやると、困った様に頭をかいていた。そこで、少しは懲りると良いわ。
すると何を思ったのか、私の顔間近のガラスの一つに近づくと口を大きく開けて息を吐いた。あっという間に白く曇るガラス。赤くなった彼の指が、その上をなぞった。
『I’m dying to stay with you!』
小さなハートマークが添えられたメッセージは、器用にも鏡文字で描かれていて。
「そういうところが、嫌いよ」
そう言って私は仕方なくドアに向かったのだ。
201310122