text | ナノ
何がどう関係しているのか分からないけれど。
「・・・ごめん」
この人にとって私はそれ気に掛けるべき存在ではないということは明白だった。しかしそのことについて彼は悪くないし、私も悪くない。彼は誰が見ても(外面的にも内面的にも)素敵だったし、私は彼に恋心を抱いていただけに過ぎないのだから。ただやはり価値観というものはどんなに素敵な人同士でも相容れないものだし、私が彼のその答えに思ったことといえば、ああそうか、という、それだけのことだった。
ちなみにその答えを彼が言う前に私が言った質問と言うのは。
「好きです」
の一言だった。質問というよりはむしろ告白だ。俗に言う、愛の告白。乙女の夢見る(あるいは経験する)ものの一つ。決して乙女だけとは限らないけど。そして。そんな行動をたったいま行い終えたばかりの私が、乙女とは限らない。
ただちょっとやってみたくなった。好奇心ゆえの行動、というやつだ。思ったことは、すぐ実行にする。行動力があるというよりは、好奇心と行動力が一緒くたになっているのであろうと思う。なんだろうこれ、と思えば調べつくすし、やってみたいと思えばやれるとこまでやりつくす。
今回はとりあえず、恋がしてみたかった。だから三ヶ月ほど前から彼を好きになって、恋心を膨らませた。結局、"恋人"には成りえなかったけれど。まあ、返事がOKだったら恋人というものやろうかなと思っていただけだったから、告白が断られた今となっては、別にどうでもいいことだ。
実際のところ、高校一年生最初の三ヶ月間を恋に費やせたというのは、なかなかいいスタートだったんじゃないのかと思う。
「というわけで先生、私、恋と言うものを体験したんですよ」
「それは擬似恋愛だと思うわ。乙女ゲーと同じ」
「恋愛?違いますよ。恋です。恋愛という字が二文字なように、人が二人いなければ恋愛とはいえません」
「じゃああなたの脳内で、恋=片思いという方程式が成り立っているのね」
「ええまあ、最初は両方がお互いに片思いをしている――すれ違いというやつですか?――も、あるようですが。私としてはそれも恋ですね」
「ふうん・・・。 あ、ここ間違えてる」
数字と記号の羅列を指差して、先生はコーヒーと一口含んだ。それは私が解いていた数式の途中式の最初の一列目であって、しかも答えをまだ出していないものだから、私はそれをまた始からやるはめになってしまった。
「はやく言ってくださいよ」
「私、数学専門じゃないもの」
私の反論は先生の正論によって一蹴される。ああもう。さっきから消しカスが増える一方だった。
「じゃあ」
先生は手元にあったチロルチョコを指で弄りつつ、包装紙を剥ぎ取りながら、言葉を紡ぐ。
「愛はどうなの?愛。これも一文字よ」
「愛は、恋愛の次です」
「でも恋愛は二文字だから二人なんでしょう?愛は?」
「恋愛中の二人が一つに繋がります。そのあと愛の結晶が生まれるでしょう?」
「・・・」
カリカリカリ。シャーペンが芯を削っていく音。雨のにおいがした。
「・・・下ネタなの」
「まあ、概ね」