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べろり。
柘榴のように赤く、長い舌が、黒い銃を舐めた。

「銃口はねえ、咥え込むのがいいんだよ。」

そう言って、僕の手を掴んで引き寄せると、彼は鈍い音を立ててそれを己の口に入れた。
黒い銃。引き金に指をかけるのは、僕。

「ほらね。ぴったり。」

にい、と、口端を開けて楽しげに笑う。喉元に、九ミリの弾丸があるというのに。なんともいえない、気持ち悪さが僕を支配していた。人ではない何かを見る、気持ち悪さ。
意思とは関係なく、銃を握る手が震えていた。恐怖ではない。恐怖なんかじゃない。これは、そういうものでは、ない。
彼は小さく微笑むと、一旦銃口を口内から開放して、僕の手からそれを引き抜いた。しょうがないなあ、と、呆れたような声が一つ。
遊底をスライドさせると撃鉄が起き上がり、同時に最初の弾丸が薬室に装填された。あまりにも、軽い、音。

「どっちかっていうと、リボルバーの方が好きなんだけど。」

彼はそう言いながら、溜め息をついた。

「オートマチックって、いかにも機械的。弾倉ってのも合理主義な感じ。」
「・・・リボルバーは持続性がなく、効率的ではありません。」
「そういうとこを良さっていうんだよ。」

君には分からないかもね、と、そう言って。
再び、銃口は彼の口元へ。
強引に僕の手をとって、それを握らせると、抵抗していたはずの僕の指は自然に引き金へ収まっていた。

「脳漿って美味しいらしいよ。あとで食べてみれば?」
「・・・・・・」
「なんか言ってよ。つまらないな。」

僕に、言葉はない。
この男に送る、言葉なんてものは。
口を閉ざす僕を面白そうに眺めて、ちろりと、舌先を出した。

「さて、ここで問題です。」

こんな状況で、未だに飄々と。
気持ち悪さ。死に対する恐怖を見受けられないことに対する。

「人と別れる時は、なんて言いますか?」
「『さようなら』。」
「ぶぶー。外れ。」

手に、暖かいものが触れる。彼の手だ。暖かくて、大きな。引き金と、僕の人差指と、彼の親指。

「正解は、またね、でした。」

その瞬間。
銃口を咥え力が込められ引き金が引かれ撃鉄が跳ね起きて遊底が反動して弾丸が発射されて。
命の終わる音は、軽く。

20121114

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