text | ナノ
「おいツナギ。」
「なんだよガレキ。」
「いくら道端に弱った雀がいたからといって何もいきなり口に入れることはないんじゃないかな。」
「うめえじゃん、雀。」
「そういう問題じゃない。」
少しだけ口の端を赤く染めたツナギが、自身が着ている繋ぎのように真っ赤になった歯並びを見せて笑う。犬歯がまるで狼のように鋭くて、歯というよりは牙だな、と感想を持った。狂暴で従順。中身も似てないでもない。
雀は見るからに弱っていた。猫にでも襲われて辛うじて逃げ延びたのか、しかし枯れ野を思わせる片羽は既に動かなくなってしまっていたようだった。それでも懸命にもう一方の羽を震わせながら進もうとする雀に、果たしてツナギは目を留めたのだった。僕と食い物以外のことに関してはあまり興味を示さない彼にしては、珍しい行動だと思った。そうしてツナギは徐に雀に近づくと、ひょいとつまみ上げて、ばくん、と口の中に放り投げた。雀は夢にも思っていなかったろう。猫から逃げ切ったかと思えば、今度は狼に喰われてしまうとは。
さすがにその光景は僕にとって気分の良いものではなかった。基本的に食する肉類には火を通す生き物である人は、生肉を食うことが少ない。もしかしたらどこか秘境に住む民族が日常的に行っていたりするのかもしれないが、それは僕の知識の範疇を超えるものだ。ツナギは一般人ではないけれど、ヒトの形をしている。
厚みのある舌でべろりと口端を嘗めるツナギを横目に、僕は諌めるように言葉を投げた。
「死ぬまで待ってやっても良かったろ。」
「勘違いしてんじゃねえの?ガレキ。」
「何が?」
「別に俺はあれが死にかけだったから食ったわけじゃねえってことさ。なんだったら活きの良い奴狩ってきてやろうか。」
「・・・いらない。」
「屍肉ばっかだと飽きねえ?」
「普通、スーパーでパック詰めされてる肉類を屍肉とは言わないんだよ、ツナギ。」
今度、馬刺しを喰わせてみよう、と、僕は思った。
20121110