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「獏は悪夢を食べると聞いていたのに、どうして君は吉夢ばかりを食べるんだろう」
「悪夢なんつー汚らしいものを私が食べるわけねーからだ」

 至極当然というように、汚いのか綺麗なのか分からない言葉遣いで君は僕に即答した。非一般人である獏の彼の目は虹色に光っていて、美しい。綺麗で素晴らしい一般人の僕の目は、暗い紺色で濁っている。格差社会もいいところだ。どうしてこんなにも違うのか。当然のことが、酷く疑問に思える。

「世界にたった一人の獏は悪夢を食べてこそ、その存在意義があるというのに。これじゃあ人が救われない」
「世界中で生きる人間は夢を創り続けてこそ、その存在意義があるんだ。救う救わない以前の問題だ」
「悪夢はどうなるんだ」
「私が知るか。自分で乗り越えろ」

 先代の獏は悪夢を喰う獏だったのに。そう呟くと、ぎこちない怒りの表情を浮かべて踵を返す。人間の器がどうにも扱い辛いらしい。そうして君は闇の中に消えた。
これで三百三十七回目となる説得は失敗に終わることになる。
ああ、また世界は悪夢に包まれる。
 人が自分で乗り越えれることなど、たかが知れている。
 ずっと獏に頼っていたものを、いきなり自分の力でやれなどと。

「無理に決まってるじゃあないですか」

 僕は笑みを浮かべてそう呟いた。

(そうして心の強いものだけが、悪夢に蝕まれることなく生き残るのだ)

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