text | ナノ
「嘘をついた」
「嘘?」
「うん、嘘を」
「嘘って、どんな」
「いいよって、言ってしまったんだ」
「…いいよ?」
「今日、好きです、付き合って下さい、って、言われて」
「ふうん」
「いいよって、言ってしまったんだ」
「…それが嘘ってことは、付き合わないつもりなの?」
「えっと、いいや、そうじゃないんだよ。そうじゃなくて」
「ええ」
「明日から、一緒に学校にも行くし、帰りに、ケーキも、食べに行くんだけど」
「ああ、新しくできた店?」
「うん。ああもう、違うよ、話を反らすなよ」
「ごめんごめん。それで?」
「だから、好きですって言われてさ」
「あなたのことがね」
「でも、俺は、好きなわけじゃないんだ」
「…ええっと、嫌いなの? 相手のこと」
「いやだから、嫌いとか、そうじゃなくてっさ。分からないんだ」
「分からない」
「そう、分からないんだ。好きなのかどうか。でも良く分からないままに頷いてしまって、だから嘘を」
「ああ、嘘をついたって、そういうこと」
「そういう、ことかな」
「…んん、じゃあ、私の見解を言っていい?」
「うん」
「相手はあなたのことが好き」
「そう言われた」
「あなたは相手のことが好きかどうか分からない」
「うん」
「じゃあ大丈夫」
「…何が」
「自分のことが好きな人のことを、嫌いになる人はいないのよ」
「でも分からないのに」
「今分かることは」
「…」
「あなたが彼女に好きでいてもらっているということ」
「好きでいて」
「そう。好きじゃないからって、好きでいてもらっちゃいけないなんてことないのよ」
「…」
「ケーキ、食べに行くんでしょ」
「うん」
「行ってきなさいよ。また何か分かることがあるから」
「…うん。…なあ」
「なあに」
「一つだけ訂正、するけど」
「あら、何か間違ってた?」
「彼女じゃなくて、彼、なんだ」
「そう。お土産、モンブランでいいから。楽しんできてね」
「うん」
おまけ
20120601