text | ナノ
声が聞きたいと彼女は言った。聞きたかったの、と。
「そういう言葉は恋人にでも言ってあげなよ」
「別れたの」
「…へえ」
「だから貴方の声が聞きたかった」
「会いに行こうか?」
「いらないわ」
「大丈夫?」
「ええ、たくさん泣いたから。それに」
「うん」
「今貴方に会えば、きっと私、貴方を好きになってしまうわ」
「そう」
「ええ」
「何かできることはある?」
「話を聞いていてほしい」
「うん。分かった」
友人はそれから声を押し殺す様に泣いて、時計の針が二回ほど回った頃におやすみなさいと電話を切った。
彼女の恋人は彼女から離れてしまったが、僕らはやはり今日も友人同士だった。
20120617