text | ナノ


「聖夜であり性夜であり清夜であるこの夜に突然で悪いのだけれど、君は、たった今君が僕に言った言葉を復唱できるかな? そう、『君は優しい人だね』。この場合、この一言の中にある『君』は君の事ではなくて僕の事になるわけだけれど。―――例えば、君がハンカチを落としたとする。僕はそれを拾って渡す。さて、この行動は優しい人かな。うん、傍から見れば優しい行動に見えるだろうね。しかし僕が極度の変質者だったとして、僕が君のストーカーだったとすると、話はだいぶ違ってくるだろう? 僕が、君が触れたもの、君が使用したものにたいしてある種の興奮を覚える人物だったとすると、それは優しい行動などではなくて、ただ自分の欲求を満たしている行為に過ぎないんだよ。ああ、言っておくけどこれは例え話だからね。え? そんなの人に因るだろうって? そうだ。その通り。君の言うとおりだ。だからこそ、僕が何を言いたいのかというと、人が行う『優しい行為』なんていうものには、大概裏にいろんな思考が隠されているものさ。憎悪、愛情、性欲、独占欲、自尊、羨望、軽蔑。まあ、そういうものがらどう拗れて捩れて引っくり返ったら『優しい行為』に繋がるのかは僕には全く理解できないけれどね。ただ一ついえるのは、純度百パーセントの優しさからくる行為なんてものは存在しないということだね。『死ねばいいのに』『苦しめばいいのに』。最近はそういう事を言う人が多い。苦しめっていうのはあまり聞かないかな? まあいいや、あまり関係のないことだからね。さて、それは『優しい行為』といえるかな? きっと多くの人はノーと言うだろう。僕もきっと言うだろうね。でもこういう考えは? それは【自分のための優しい行為】であるという考え。さぁ、話はややこしくなってくる。全てが己自身のための行為であるということだね。しかしこの場合の思考の途中で、その話は成り立たないのだということも、分かるかい? 君は僕を『優しい人だ』と評した。うん、そう、そういう評価≠ノなる。だけど君はそういう自己中心的な@Dしさを僕に求めているかというと、きっとそうでもないんだろう? 君が僕に求めたのは、他者に対する行為のことだろうからね。というわけで、今の僕の言葉は却下。ただの寄り道、多々ある話の中の一つだと思っていてくれ。さて、僕の『優しい行為』の定義は分かってもらえたかな? では次だ。今度は『優しい人』というものについて思考回路を開くとしようかな。結論から言うと、そんなものは同じくこの世界には存在しない。そんな曖昧で蒙昧で馴れ合いなカテゴリは、そもそも存在しないわけだ。『優しい行為』の裏に様々な思惑があるように、『優しい人』の中身も様々だ。人を傷つけることが優しさだと思っている人間、金が優しさだと思っている人間、弱さが優しさだと思っている人間、可愛がることが優しさだと思っている人間、受け入れる事が優しさだと思っている人間、拒む事が優しさだと思っている人間。実にバリエーション豊か。君はどうなんだろうね。それは僕の干渉するところではないけれど。『優しい人』というのは、数ある人間の種類の数と組み合わせで、随分と認識が違ってくる。組み合わせ。そう、組み合わせだ。くじびきでも、計算でもなんでもいいから、とにかく、組み合わせの数だけ、『優しい人』というのは存在する事になる。けれどそれは本当に在るのだろうか? 君はどう思う? 僕はあまりに虚ろだと感じるよ。数がある分だけ、空っぽだ。空っぽで、中身がない。だからそれは無いということになるだろう。空々漠々、空虚にして虚像にして雑言だ。確立されていないものに存在は与えられない。この世界はそういう造りになっているのだからね。というわけだから、僕が『優しい人』であるという君の認識は誤解なんだ。失敗と言ってもいい。さっきも言ったように、そもそもカテゴリがないんだから」

一呼吸。

「それで―――たった今僕は君の意見、否、意見ですらない一言を木っ端微塵に余すところなく粉々に破壊し尽くしながら全否定をしたわけだけれど、しかしそうも言ってしまってはあまりに君が報われない。僕も救われない。これじゃあ虐めだ。虐待だ。君に訴えられてしまう可能性だってある。一体それがどういう罪になるのか、どういう罰になるのなかんて僕は知らないんだけれど。だから今からはそう、『優しさ』について思考回路を繋げてみよう。君の言う『優しい人』、その『優しい人』の確固たる存在意義の『優しい行為』。これらは僕がさっき否定した。そんなものはこの世界に無い。あるはずが無い。人っていうのはそういうものだからね。しかし、『優しさ』については少し違う。『優しい行為』、『優しい人』。それらを空想の上、空虚の中のとはいえ、確実に人々の認識にインプットさせているその理由は、『優しさ』にあるんだろうね。ということは、『優しさ』というものはこの世界に存在しうるわけだ。言っている意味が分からないという顔をしているね。尤も、君は僕が口火を切った時点でそんな顔をしていたけれど。話を戻そう。『優しさ』。それは『行為』のように純度百パーセントでなくていいものだ。一パーセントでもソレがあれば、それは『優しさ』として存在意義を持つわけだ。だからこそ、それにミックスされる様々な感情が生まれる。さっきの話でしたようにね。たとえば、性欲。それだけで行動すれば、その人間はただの獣だ。そこに優しさと愛情を組み合わせて、やっと人間らしいそれなりのことができるわけだ。ま、逆にそっちの方が獣っぽいこともあるんだけれどね。どんなことだって? それは自分で考えてくれ。僕はそこまで説明するほど、『優しい人』ではないよ。はは、今のはなかなか良い返しじゃないかい? そこで最初の君の発言に戻る。僕は『優しい人間』ではないのだけれど、『優しさ』は持ち合わせている。色々な思惑や感情や思考が付きまとってはくるけれど、『優しさ』純度百パーセントではない『優しい行為』や、偽者で空想上で空虚中の『優しい人』を演じることができる。ということはどういうことか? グレーゾーンではあるけれど、君のいう優しい僕≠ェ誕生するというわけだ。そうだね。君の言っていたことは間違っていたけれど、それは結果だけを言っていたからであって、決して、その後の解決策を全否定したわけではないんだ。勿論これは言い訳であって。僕が僕を守るために言っているわけだけど、しかし嘘ではないことは、嘘じゃない。ライイズノットライ。ギブアンドテイク。・・・残念ながら僕の英語は大したことないよ。そもそも日本語力も怪しいものだけれど。ああ、また脱線してしまった。ところで、、僕は結局ここまできて何がいいたかったのかって言うと、君に聖夜のプレゼントをしようと思い至ったわけでね。これは大体足掛け三年ぐらいかかってるサプライズだったわけだけれど、なんだか君の呆けてる顔を見てたら面倒くさくなったので、単刀直入に切り出してしまおうかな。刀だけに。それじゃあ君にサプライズプレゼントだ。受け取ってくれよ。さて。
 優しい君に優しい夜と偽者で紛い物の優しい僕を捧げよう。
 アイラブミー、アイラブユー。」

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