風邪気味天使
小説 長編 | ナノ

Story               


向日葵。
それは、夏を代表する花である。

いつか読んだ本に書いてあった。
ありきたりな文章で、ありきたりな事だ。
読んだのは確か、『向日葵を育ててくれますか』と、ワイミーさんに種を渡されたあの日だ。きっと、いつも1人でいる私を見兼ねて言ったんだと思う。

虚ろな目でそんな事を考えながら名前は水やりをしていた。
名前の目の前には色とりどりの花が咲き乱れている。向日葵を育ててみたものの、妙に寂しかったので、ついでも他の花も植えたのだ。

庭……というより、花壇の奥にはグラウンドが広がっている。
……要するに、グラウンドの端に花壇があるという事だ。
名前は花壇でいつもグラウンドを眺めている。水やりと共に名前の習慣になった。と言っても一日中そうしている訳だが。


楽しそうにサッカーをする男子たち。その中でも一際目立っているのは、濃い金髪の少年。この人を見るだけの為に毎日グラウンドを眺めていると言っても過言ではない。細かなところまでは見えない。しかし顔は整っているようだ。
これは休み時間に盗み聞いた話だが、クラスメイト曰く、
『陶器のようなつるつるとした白い肌、そして艶やかな金髪で美しい海をそのまま映したような青い目を持つ天使』

………らしい。

いささか持ち上げすぎなような気もするが、遠くから見ても美少年である事は分かる。だからきっと、近くで見ると…………………すごいんだと思う。うん。


◇◇


視線が気になる。
いつからだろうか。確か半年……いや、そんなに経ってはいないだろうが、とにかく大分前から誰かに見られている。

ーー庭?

花壇からだ。

「おい、メロ!」

突然大声で呼ばれ、メロは驚き、目を見開いて振り返った。

「な、なんだよ」
「ボール、早くこっち渡せよ!」

ボール?……、ああ、
サッカーか。
僕のことなんてどうでもいいらしい。軽くボールを蹴ると、世界の終末のような必死の形相で走って来た。

それよりも。
メロは再び花壇の方に目を向けると、一瞬、何かが動いたような気がした。
それから、静かに向日葵の森へと足を運んだ。


今日こそガツンと言ってやる。視線が邪魔なんだ、って。
そう意気込みながら花壇に向かっておい、と声をかけると、

振り返ったのは、小さな少女だった。

「ぁ」

……身長からして年下か? いやでも肌の色からすると日本人……で、確か日本人は元々体の小さい民族……。

いや、いや。
どうでもいい。

「おい、お前。何でいつも僕を見るんだ?」

メロは名前をじっと見つめた。
僅かだが怯えている。そして徐に口を開き、

「ごめんなさい」

消えてしまいそうな程の小さな、震えた声で彼女はそう言った。

「あ……いや、別にいいけど」
「……」
「……」
「お前、名前は?」
「ぇ、あ、えっと……名前、です」
「名前、か…………僕はメロ」
「はい……」
「とりあえず敬語やめろ」
「……うん」

よし、とメロは微笑んだ。
それから思い出した様に、校庭の方へと駆けて行った。



向日葵の香に誘われて




back


top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -