梅雨が明けたばかりの7月。朝起きて一番に耳に入ったのは懸命に鳴く蝉の鳴き声だった。


(あぁ夏だなぁ…)


部屋の中は暑く蒸されて何もしていないのに汗が滲み出る。寝汗を吸い込んだシャツが気持ち悪い。


(あぁ、昨日から一夜があけたのか)

昨日も部活で帰りが遅かった俺は、一人で帰路についていた。まだ明るい空を見上げて、日が長くなったなぁとしみじみと思った。

そして高い空から目線を下ろした先に、彼女を見つけた。



そしたら彼女も俺に気がついて。
お互いに、試合が近いと大変だなと話した。

伝える気など無かったのに、隣にいる彼女が楽しそうに笑う度、胸が締め付けられる感覚に襲われて自分でもどうしようもなくなってしまったんだ。

近い距離。けれど手が触れる事さえない距離。

友達という名の垣根が見えた気がした。

彼女とはきっとずっとこの距離が保たれる。


だから出てしまった。伝える気など無かった筈の気持ちが。


「……困った顔、してたっけなぁ」


ごめんなさい、と俯いた彼女の、今にも泣きそうな顔が脳裏に焼き付いて離れない。違うんだよ、そんな顔をして欲しかったわけじゃないんだよ。

ただその時、無性に欲しくなった。欲してはいけないとあれだけ自分に言い聞かせてきたのに。

その手に触れてみたいと思ってしまった。

あの瞬間。気持ちはあっと言う間に溢れかえり、口から飛び出した。

後悔はしていない。
ただ彼女を困らせてしまった事実だけが俺の心を揺さぶるのだ。


きっと彼女はアイツにこの事を言わないだろう。いや、周りの誰に言えようか。

次に会う時もきっと自然を振る舞い、俺を傷付けないように笑うんだ。

気遣い上手な彼女の笑った顔が脳裏に浮かぶ。



考える事は堂々巡り、


蝉がけたたましく鳴く声だけが頭に響いた。



まだまだこれから蒸し暑くなるであろう夏。

俺はただ彼女を想う事しか出来ない。








蝉のようになけたらと、

(思う自分が情けなく
また一層なきたくなった)









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