獄寺隼人。
彼は俺達にとってカリスマ的存在だ。


とある部下の心情


「お疲れさまです!」

「おぅ」

昼過ぎ。ボンゴレファミリーの中でも断トツでヘビースモーカーなこの人は、今日も変わらずこの喫煙室へ足を運んで来た。

「ご昼食はお取りになられましたか」
「いや、一服したらまた仕事があるからな。昼はその後だ」
「宜しければお持ち致しましょうか」
「あぁ、頼むよ」

煙草に火を付け、一息吐くその姿はあまりにも様になり過ぎていて、男の自分でも思わず見惚れてしまう。

自分もいつかあんな風になれるのだろうか…。
自分の最近出てきた腹を見下ろして、思わずフッと自嘲が漏れてしまった。

「俺もいつかあんなカッケー男になりてぇなぁ」

共に休憩に来ていた同期の男が呟き、自分の腹から目線を上げる。

「…あぁ?お前、前に笹川さんになりてぇって言ってなかったか?」
「いやー…あの人も男気があって憧れるけどよ、なんつかもう少し落ち着きがあっても良いような気がすんだよなぁ…」

瞬間、脳裏に絶叫する笹川さんが映り苦笑が漏れた。

「…あの人の、何事にも全力で取り組む姿勢は尊敬出来るけどな」
「時々付いていけねーんだよ…。比べて獄寺さんは普段はクールで、いざとなったら先頭切って突っ込むし、しかも頭良いだろ?さすがボスの右腕。非の打ち所がねぇよ」

「…そうだな」

獄寺隼人という人間を知れば知るほど、どれだけ己が凡人であるのか思い知らされる。

あの人は雲の上のような存在なのだ。


「恐いものなんて無いんだろうなぁ」

「それがあるんだなぁ。これが」

ポツリと漏らした声に、近くにいた獄寺さん直属の部下である男が反応した。

「あ?あぁ…ボスだろ?」

その男は俺の回答にチッチッと舌を鳴らした。

「違う違う。女だよ」

「あ、あんなカッケー人が女に弱いんすか…?」

「つっても、そこらにいる女じゃないんだけどな!」

ハハハと笑う男に意味が解らず、首を傾げた時。

『ピリリリリ』

高い耳につく音が室内に響いた。

「やっべぇ…」

胸ポケットから携帯を取り出した獄寺さんは、ディスプレイを見た瞬間顔をこれでもかとしかめた。

「れ、例の女からですかね?」
「だろうな」

まるで、その光景が日常茶飯事かのように落ち着いた声色で言う。


「すげぇ!あんな獄寺さん初めて見ましたよ!」
「あの様子じゃ昼は抜きだな」

さっきまでの凛々しい姿は何処へやら。背中を丸め、そそくさと部屋を出ていくその寂しい後ろ姿はとてもじゃないが、マフィアには見えなかった。




「あの人も、人間なんだな…」

俺は、そんな当たり前の事を、ぽっかり空いた頭の何処かで思ったのだった。











111018




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