2月14日
俗にいうバレンタインデーだ。
ここイタリア、ボンゴレ本部にも訪れている。
ボスである沢田綱吉を始めとする幹部が日本人が多いことから、愛の日というよりお中元に近いものになっていた。
「(来るなら一言言えばいいのに、)」
ぼんやりとバンドを動かしながら隼人は思う。
どうも、妻であるハルは自分の部下にチョコレートを渡しに来たみたいだ。
彼自身はたまたまいなかった為会えなかったが。
「なんか、ムカつく」
部下に、なのか。
妻に、なのか。
家がだんだん見えてきた。
ハルの希望により小さい可愛らしい家。
玄関先には花が咲いている。
「隼人さん。おかえりなさい」
「ただいま」
「…なんで来たんだ」
食後のエスプレッソを飲みながらいう。
「はひ?」
「チョコレート、渡しにきただろ」
「あぁ、だって隼人さんがお世話になっているんですもの。皆さん何か要っていましたか?」
「…旨かった、とさ」
口の中は苦い。
ポケットの煙草に手を伸ばす。
しかし手に感じるハルの視線に負け、戻す。
「ちょっと待ってくださいね」
席を外して二階の寝室に向かう。
スリッパの音が遠ざかる。
「あのチョコレートはボンゴレの皆さんにあげるために京子ちゃんたちと作ったんですよ」
再び聞こえるスリッパの音。
「はい。隼人さん」
渡された箱。
「甘いもの苦手ですしチョコレートだと食べて終わりですからね」
流石、新婚だけど、十年来の付き合い。
隼人の一つの行動でちゃんと理解している。
箱の中は銀色に光る腕時計。
「にしてもやきもちやきですね!」
「うるせー」
チクチクと刻む針。
「お返しは、愛とか?」
いたずらっ子のように笑うハルの短い髪に手を差し込み、溶けやすく消えない口づけを施した。
なくならないモノ
(よっ、と)
(ひゃっ!なんで寝室に向かっているんですか?!)
(愛、なんだろ?)