「メールアドレスにハルの名前を入れて下さい」
あぁ、またアホな事を言い出しやがった。
「…………」
「……そんなに嫌ですか」「当たり前だろ」
そこら辺にいる若いカップルならまだしも、俺達はもういい歳の夫婦だ。んな恥ずかしいまね出来るか。
「本当お前は何年たってもいきなりだな」
「これには意味があるのです!!」
得意気に両手を広げた。
こういう所も変わってねぇな……。
「実はこれ浮気防止なのです!!!」
…………それって。
「俺疑われてる?」
「あくまで"防止"ですから」
「防止……」
「メアドにハルの名前を入れる事で、隼人さんが愛人にメアドを教えても愛する妻がいるって事が分かってしまうのです」
愛人…愛する妻……。
「昼ドラ見すぎ」
「男と女の駆け引きは日常行われているのです」
そう言うとハルは机の上に置いておいた俺の携帯を手に取った。
「"Love"も入れましょう」「ちょっ、お前……!!」
取り返そうと手を伸ばすも上手い事かわされてしまう。
ま、まずい……。携帯を今開けられるとかなりまずい!!!
「ふざけんな!!返せ!!」
「はひっ!怪しいです。まさかもうすでに…………」
違う違う違う。違うからマジで返してくれ―――!!!!!
嫌な汗が流れる。
俺の心の叫びも虚しく、ハルは携帯を開けてしまった。
「…………」
「…………」
「…………」
「………返せ」
「………はい」
大人しく携帯を俺の手の平に乗せたハルの顔は真っ赤になっていた。
「まだメアドにお前の名前入れて欲しいか?」
「……いいです」
それもそうだろうよ。"これ"なら浮気なんて出来やしねぇし。
「い、いつ撮ったんですか……それ」
「………さぁ」
あんまり見られたくなかったものだったけど、まぁこれでメアドにこいつの名前を入れずにすんで結果オーライか。
携帯を開けば画面に広がるハルの寝顔。
悪戯半分に撮ってみたら案外いい感じに撮れたから待ち受けにしておいたのだ。
「それの方が明らかに恥ずかしくないですか……」
「別に」
俺ははっきり答えてハルのいまだ真っ赤に染まる頬を撫でた。
「浮気なんかしねぇから」
「……したらぶん殴りますよ」
ハルは女らしくない言葉を吐きすてて俺に抱きついた。
――こんな可愛い奥さんがいるのに浮気なんかしようと誰が思うのやら………