季節が変わる度に季節限定のケーキだとか新しい服だとか何かと騒ぐ彼女は、この季節特に騒がしい。
今も俺が夕飯を食べている目の前で、何冊もの雑誌を広げあれがどうのこれがどうのと、一人わーわー喋り続けている。雑誌の中身はどこも春特集を組んでいて、見所スポットから春限定の甘味処まで選り取りみどり。
「ここの桜は凄く綺麗なんですって!こっちのお店は毎日行列が出来るくらい評判らしくて……」
俺が一口飯を運ぶまでにそれはもう何個もの情報がハルの口から飛び出す。それらを一つ一つ頭に入れる気などさらさら無い俺の意識はあちらこちらと浮遊するばかり。
最近暖かいなあ、とか
平和だよなあ、とか
桜が咲いて綺麗だったなあ、とか
あ、そういえば明日雑誌の発売日だ。
「本屋行かなきゃなー…」
「ああ、じゃあ服を見に行った後で」
「………あ?」
「こんなもんですかね、明日の予定は」
「え?あ?」
「起床は6時で!」
『じゃっお先に!』とすっきり爽やかな笑顔を振り撒き寝室に消えてしまったハル。
そして取り残されたのは
俺と、メモ用紙にぎっしり書かれた明日の拘束コース。
春がやってきましたよ!
(ってか6時って早すぎませんか?)
09417