「あああぁあぁぁ!!!!!」
獄寺家に絶叫が響いたのはまだ朝も早い時間。
「ちょっと隼人さん。ご近所迷惑ですよ」
「ハル!これっ……何が起こった!?」
一人困惑に陥っている獄寺に、ハルは気まずそうに視線をそらした。
「な、何がですか?」
「いやいや、お前明らかに気づいてんだろうが」
「わあ!隼人さん素敵なネクタイですね!」
「"ですね!"じゃねーんだよ!何だこの悪趣味なタイは!」
びしっと獄寺が指差した先には、ハートの刺繍があしらわれたネクタイや、ビビットカラーのネクタイの数々。
「黒のタイどこにやったんだお前ぇぇ…」
「お出かけしちゃったんですよ」
「んなわけあるかぁぁあ!!!」
朝の忙しい時間のハプニングでもあるためか、普段よりツッコミがきつい獄寺にハルは肩をすくめてため息をついた。
「それイタリア製なんですよ。覚えてません?ディーノさんからお土産にって頂いたじゃないですか」
「……跳ね馬に?」
「一度ぐらい締めないと申し訳ないですからねぇ……、今日はそれで我慢して下さい」
「俺にこんな気持ち悪ぃピンクのネクタイしてけって言うのか!」
「緑とかオレンジもありましたよ?」
「そういう問題じゃねえ!」
「はいはい」
ハルは獄寺の怒りを軽く流し首にかけてある悪趣味なネクタイに手をかけると、手慣れた手つきで結び始めた。
その強制的な行動に獄寺は肩を落とす。
(マジですか……)
「そう気を落とさなくても………ほらっ凄くお似合いですよ!」
ハルに勧められ見た姿見には何とも間抜けな自分の姿。そして斜め後ろで笑いを堪える嫁。
「さ、最悪だ……!」
脳裏に浮かんだファミリーの笑う姿に、獄寺はがっくり肩を落としたのでした。
090605