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2治療(初回)

何を言ってるんだ!と榛名さんの取り乱した声が響く。一体急にどういうことだろう!半信半疑の私が訝しげに見つめるも千葉先生はいたって真面目に提案をしているようだ。

『まずは彼の欲求を満たしてやる。俺と奥さんでの行為を見せるから始まり、次のステップでは三人で行為を行い、何回か時間をかけて徐々に二人きりの……ノーマルな性行為に移行する。最終的には普通のセックスで満足できるようになるという計画だ』
「そんな治療があるんですか」
『ああ、一般的な治療法だね。当院でもあなた方のようなカップルを変えた実績が何十組とある。どう奥さん、協力してくれるね』

先生はそばに寄った私の頬に手を添えた。
手が触れた途端榛名さんが私を自分の方へ引き寄せた!

「そんな治療法あるわけないだろう!もしあったとしても千葉、どうしてオマエとやらなきゃいけないんだ。勘弁してくれ……!」
『彼にとって願ってもない状況のはずだけど悪態をつくのは、あれだろうね。俺と榛名の女性の好みが似ているからだろうね』

びっくりした私が榛名さんの方を見るとバツの悪そうな顔をしている。

「あやねよく聞いてくれ。千葉こそ特殊な癖の持ち主だ。……君のことも隙あらば食い物にしようと考えているに違いない」
「え!?ええ!?せ、先生……、こう榛名さんは言いますが、まさかそんな」
『そうだね、もし俺の女であって好きにしてもいいなら夜はあなたをペットにしたいね』
「ペット!?」
『けど安心していいよ、これは治療の一環だからね。榛名の奥さんであって、俺のじゃない。ちゃんとわきまえるから心配いらないよ。それより君らは治療を求めているんだろう。……俺のことなんてどうでもいいね。仕事にプライベートは持ち込まない主義なんだ』

信用できるか、と榛名さんが噛み付く。
けれど先生はどこ吹く風だ。ふう、とため息をついた。

『榛名。奥さんには悪いけど、彼女が俺にペットにされると想像してごらん』
「!」

なんだって!?と私はびっくりして榛名さんの顔を見た。彼もこちらを見ていたが、どこか雰囲気が違う……。食い入るように目を開いて、私に釘付けになっている。

「……え、榛名さん?」
「あ……いや。ほらアイツはおかしいんだ……」
『ふふ。興奮したんだろう。わかりやすいね』
「!?(そうなの!?)」

榛名さんは今度はこちらと目を合わせない。本当に興奮したって言うのだろうか!?

『さて。治療を始めようか。奥さん俺の隣に来てくれるかな。大丈夫、最後まではしないさ。今日はね』







最初こそ行くなと言う榛名さんだったが結局なし崩し的に治療をすることになった。かなり勇気がいるが、それ相応の覚悟を持ってここへ来たのだ、どうにかして関係を改善したかった。

「(私にできることならなんでも頑張ろう。なんでも……。というか先生こそ嫌じゃないんだろうか見ず知らずの私とするなんて)」

榛名さんは対面のソファに座ったまま、私はおそるおそる先生の横に座る。目が合うと、先生は少しだけ微笑みを浮かべた。

『ふうんやっぱり、奥さんは見た目が良いね。きっと中身も良いんだろう』
「……あやね、やっぱりやめよう。……信用できない」
『こういうものには臨場感が必要だろう?』
「…………、あやね……」

榛名さんがこちらを見る。冷や汗が出る私だったが、心配させまいとぎこちなく笑顔を作った。

「だ……大丈夫です!先生、や、やってください」
『ちょっと震えているね。ふふ。力を抜いて。楽しむのが一番だよ、嫌がるのも良いけれど。うーん榛名はどっちが見たいんだろうね』
「んぅ……っ……」
『どっちもかもね……』

と、ゆっくり近づかれ、キスされる。
思わず体を離してしまうが詰め寄られ、たしなめられた。君は覚悟があるんじゃなかったのか、と。榛名さんを見る。不安げな表情ーーだけどそれだけじゃない?
そうだ頑張らないと、ここまできたのが無駄になる!今度のキスは拒まない。すると……やがて舌を入れられて、ーーだんだんと口付けが深まっていく。

「んっ……っはぁ……」
『そうそう。ノッてきたね。……余裕が出てきたら見せつけてあげよう。榛名に』

なんて言われて体がこわばる。けれど徐々に緊張が溶ける……。もしかして、いやもしかしなくても先生はかなり上手い!でも性的に興奮するかと言われるとそれは無理だ、なにせ榛名さんが見ている。ーー息苦しくなってキスをやめる、見下ろす先生の視線が痛い。
見つめられるとどんどん気負いが深まる、私はとんでもないことをしている。榛名さんは若干息を荒げてこちらを観察している。興奮している。性的にというより感情が高ぶっているような。

「(良いのかな?怒っているようにも見えるけど……)」
『ふふ。目が離せないって感じだね。あやねさん、結構イイみたいだよ』
「そ、そうですか?(そうかな?)」
『ああいう性癖の人はね。君がコトに夢中になればなるほど燃えるものなのだけど。……やはり旦那さんが見ていると奥さん的には一歩引いてしまうよね』
「えっと、まあ……はい…すみません」
『だから俺たちは隣の診察室に行こうか』
「え……!」
『誰にも見られないところでふたりきり。それなら少しは身も入るんじゃないかな』

と言われ、榛名さんに意見を仰ぐも。

「待て、駄目だ。ふたりきりなんて危険すぎる。そこまでやっていいとは言ってないぞ!」
『医者の言う事が聞けないで治す気あるだなんてね。おかしな話だと俺は思うよ』
「……ぐ、しかしだな……」
『さあ行こうあやねさん。そうだな、榛名は30分以上はみておいて』
「な!?長すぎる!」
『そうでもないね、短いくらい。これは初回だからだよ』

千葉先生に肩を押されて、隣の部屋に移動する。榛名さんの動揺した顔が最後に見えた。
通されたのはさっきまでいた部屋とは違って傍にベッドが置いてあるタイプの診察ルームだ。おもわずはっとした。

「(ベッド……!今日いきなり最後までどうこうはないだろうけれど?……ふたりはふたりで緊張する……)」

そのベッドに座らされて、居心地の悪い私はきょろきょろと辺りを見回す。千葉先生は一緒に持ってきたコーヒーを飲みつつ、少し離れたデスクチェアに腰を下ろした。

『お疲れ様、大変だっただろう。いきなりああして悪かったね』
「は、はあ……、大丈夫です、なんとか」
『大丈夫には見えないね』

正直いっぱいいっぱいだ。動揺から瞬きをする私を横目に見つつ、先生は小さな冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して、私に差し出した。受け取って一口、飲む。緊張は拭えない……。

『安心して。榛名はもう見ていないから、もう何もする必要がない。40分したら彼の元に戻ってね、いかにも何かありましたという雰囲気をだそう。……もちろんこれは治療の一環だよ、彼の欲求を満足させることがプログラムの第一段階だ』
「!そ、そうなんですか!(よ、よかった……)」
『安心したって顔だね。……さっきのような治療は嫌だったろう、でもうちの病院じゃこれが一番効果がある。定期的にヒアリングじゃちっとも良くならないものでね。荒療治だけど効果は確かだ』
「……、…………、」
『あやねさん?』
「あ、いえ……。ちょっと、まだ驚いているようで」
『そりゃそうだね』
「けれど……、頑張ろうと思ってます、私にできることなら、……」
『そう。それは立派だね』

今どうこう、じゃなくて本当にホッとした。
あからさまな私の安堵に、先生は目を細める。笑っているが心の底から笑ったんじゃなく、少し愛想を出したようだ。

「その、先生はこういう治療よくやるんですか?」
『よくはやらないよ。効果はあるけれど簡単な治療じゃないからね。でもやって、直したことは何度もあるよ』
「……!そうですか、そう……!お医者さんって大変ですね」
『まあその分やりがいがあるし、給料も良いからね』
「な、なるほど……?」
『それよりね。頑張ろうと思っている、その気持ちはすごいけれどね、よく考えて欲しい。……次以降キスだけとはいかなくなるよ』
「え!」
『実際に君は旦那以外の人間と行為することができるのか。……家でしっかり考えて来て。やめるなら今だよ』
「……!あ……」

こちらを見ている先生の目はまるで出方を観察するみたいだ。

「わかりました。考えます。でも……気持ちは決まっています」
『……』
「(だって)」

本当に辛いのだ。今の性生活が辛いのだ。
だから今日だってここまで頑張れた。
思いつめた私の顔を見て先生は柔らかく微笑んだ。

『……俺は君たちの役に立てるよう医者として最大限頑張るつもりだよ。良くなるといいね。……じゃあ、しばらくこの部屋でくつろいでて。俺は雑務でも片付けてくるから』

先生は入ってきたのとは別のドアから、コーヒーを片手に出て行った。ひとり残された私はうーんと唸った。頼りになる先生……かどうかは結果次第だ。

「(頑張ろう……!)」

榛名さんは家に帰ったあと、今回の治療内容について、そして自分の問題について謝り倒していた。もう行く必要ないとも言った。
しかし夫婦生活に明らかにハリが出た!事後悩んだ様子も見られない!即出て行くこともなくなった。彼が気がついているかは不明だが。
そこで私はこれからも治療を続けるのが良いと判断した。

これも榛名さんのため、私たち夫婦のためだ!私はこのチャンスを逃さず惜しみない献身で治療をしていく決意をしたのだった。



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