2012/10/07 09:44
唯一無二のこの絆に、ほんのりと淡さが帯びたのはいつのことだったか。
側にいればいるほど、切なくなり、離れれば離れるほど、焦がれてやまない。
その髪に、頬に。その柔い桜色の唇に。
君への想いをのせ。
今、その曖昧な境を踏み越える。
きり乱(成長)
2011/09/28 20:41
髪紐をほどくと長くしっとりとしたそれがさらりと肩にかかる。
岩緑青と銀灰色を合わせた彼固有の色が夕陽を浴びて茜色に染まっていた。
そっと頬に掌を添えればくすぐる感覚がしたのかけらけらと笑う。
それを見てなんだか気が抜けてしまう自分がいる。
そんななんでもない日常が、ただ愛しい。
(孫さも)
2011/08/02 21:19
手を伸ばせば届きそうで、でも届かない。
君が気になって、これが恋だと気付いたのは、二年前。
何かと弱音を吐きそうになるたびに君に甘えて。
君はそれをやさしく受けとめてくれた。
今、君に想いを告げたら。
君は同じようにやさしく受けとめ、俺にその身と心をゆだねてくれるだろうか。
「団蔵?どこかまだ痛むの?」
嗚呼、君のその声が甘く鼓膜に響く。
「いや、もう大丈夫。乱太郎、ありがとな!」
嗚呼、俺は君に恋をしている!
(団蔵の片思い・成長)
2010/07/24 23:01
「お前は変わってくれるなよ」
いきなり聞こえてきた科白に驚き、紡いだ本人へと顔を向ければ、こちらを思いの外真摯な色を瞳に宿し、己を見つめていた。
「どうした?意味もない言葉を言うなんてお前らしくない」
「明日は槍が降るかもな」
「…自覚があるなら言うもんじゃねぇよ」
「…そうだな」
さらりとおろした髪が頬を撫でる。
互いに分かっていて、だから踏み込まない。
この曖昧な境界線に甘えているのはどちらなのだろうか。
(文次郎と仙蔵)
2010/07/13 18:53
なんだかんだいって俺は惚れているさ。いつもあまり素直になれず天の邪鬼になってしまうけれど。
でも、ちゃんと俺だって伝えたい。
本当に本当に惚れてるってこと。
本当に好いているんだってこと。
だから、俺に接する時にふと悲しげな表情をしないで欲しい。
どうせ下らないことを考えているんだろう。
だったら、俺がそんなこと考えられないくらい伝えるように努力するよ。
(竹久々:久々知の思い)
2010/07/13 18:53
「孫兵」
君が僕の名前を呼ぶだけで、胸の内がきゅっとしまるようで、でもむず痒さがあって、ほかほかと温かくなる。
「孫兵!」
取るに足りないことや今日あったことの話や特別用もないのに呼ばれる僕の名も心地よく鼓膜を振るわす。
「孫兵!」
君が向日葵のように咲かす笑顔で紡ぐ僕の名を。
どうして嫌いになれようか。
(孫さも: 好いた相手に呼ばれる名前は特別)
2010/06/06 00:48
「帰ろうか」
そう言って差し出される掌に自分のそれをのせた。
そしてそのまま学園までの道なき道をゆっくりと歩む。
忍務帰り、新緑の若葉が芽吹く頃にしてはちょっと肌寒い真夜中。誰にも見られていないとは分かっていても少し恥ずかしい。けれど、幸せなひととき。
二人分の温もりを共有するこの行為がどんなに自分を幸せにしてくれて、どんなに自分を救っているか。
孫兵、おまえは知っている?
(孫さも)
2010/06/05 20:25
白磁のような肌にしっとりと濡れるような漆黒の豊かな髪。
どこか儚げさも感じられる容姿だが、芯の通ったその揺るぎのない内面は言葉にし難いほどにお前は美しい。
なぁ、悲しい表情をしてくれるな。
俺はお前に似つかわしくない男だよ。その柔い唇から紡ぐその甘美なる言の葉はお前にふさわしい女に言ってやれ。
(文(→)←仙)
2010/06/04 15:36
君が愛しい。
かの文豪が、人に愛を伝える言葉を「月が綺麗だね」と訳したが、巧いものだ。
でもいくら悩んでも俺にはそんな巧い言葉など思いもつかず、伝えられやしないから。
「お前が好きだ。愛してるんだよ」
(竹久々)
2010/02/03 22:44
「保健委員は、怪我や病の治療をすることが仕事だけれど、根本は命を助けるということだ。それは容易いことではない。精神的にも肉体的にも重圧を感じるものだ。そして、人を慈しむ心が必要なのである。お前達はこれから様々な事態と向き合うだろう。時には、死とも向き合わなければならなくなる。恐れを抱き、不安になり、何が悪で善なのか分からなくなる時が来るだろう。でも、三つだけ忘れないで欲しいことがある。まず、どんな悪い人でも善い人でも互いに同じただの人であり、一つの命しか持っていないということを。そして、人は完璧ではない。たとえ救えなかったとしても…、それを自分の責任だとして自分を責めるな。最後に…お前達はもう立派な保健委員であるということ。これらを忘れるな」
善法寺伊作先輩の卒業が決まって数日後。私たちを保健室に集めた先輩はそう述べ、ぎゅう…と私たち四人を抱きしめた。ひだまりのように柔い先輩の温もりがあまりに優しかったので、私を始め、みんながぽろぽろと粒が数多に頬を伝い止まぬ雨のように泣きだしてしまったのを見ながら、先輩も同様に涙を流していた。
今でもまだ鮮明に思い出すことができる。幼かった私にとって忘れられない大切な思い出。
あれから幾年か過ぎ、三反田先輩、左近先輩も保健委員長を務めこの学園を卒業された。
そして、今。三人の先輩と同じ道を辿り私も委員長を務めている。
前は不運が嫌で嫌で仕方なかったが、今ではその不運故に学び得たものが私を助けてくれる。
「乱太郎ー、何考えてるの?」
薬棚を整理していた伏木蔵がいつのまにか私の横に座り、顔を覗き込んでいた。
「ん?いや、善法寺伊作先輩、三反田数馬先輩、川西左近先輩などちょっと昔のことを思い出していたんだ」
「うわ、とても懐かしいね。先輩達元気にしてるかな」
「そうだね、怪我とかされてなければいいけど…」
「まぁ…、僕たち伊達に不運委員を務めてきたわけではないから大丈夫だと思う」
「はは、確かにね」
鶴町伏木蔵は私と同様六年間保健委員を務め、現在副委員長的立場として私を支えてくれてる。相変わらず、スリルを感じることが大好きでたまに危険なことを仕出かすけれど。
「…おや、スリルなことが起きるかな?」
「えっ…?」
「「猪名寺委員長ー!大変です!!」」
「会計委員会に予算の抗議をしにいった各委員会メンバーが喧嘩をし始めて怪我人が続出しています!」
ドタドタと廊下をかけて勢いよく扉を引き開けたのは保健委員の二年生と一年生。どうやら途中で不運にも蛸壺やカラクリに引っかかってしまったらしくすでにボロボロだ。
「各委員会の喧嘩…、スリルー」
「なに悠長なこと言ってるのさ!ほらまずは二人の手当をしなくちゃ!伏木蔵は残りの保健委員を連れて直ちに現場に向かって!」
「りょうかーい」
伏木蔵が救急箱を持って向かうのを視界の端で確認し、すぐさま二人の手当にあたる。幸い擦り傷だけで、大した怪我は無かった。
「よしっ、これで大丈夫。じゃあ、私達も現場に向かおう!」
「「はいっ!」」
善法寺伊作先輩、三反田数馬先輩、川西左近先輩。
私たちは保健委員会で学んだこと、そして先輩方の大切な想いを後輩に伝え、残していきます。
そして…。
「うわっ!!」
「「猪名寺先輩っ!?」」
やはり不運も受け継がせていきます!