古い幼馴染みとばったり。…今の状況を表すにはそれが1番適当だった。

「…名前?」
「うん。――秀星」

本当の本当に、ただの偶然だ。…いや、誰かが昔、“偶然なんてこの世にはなくてあるのは必然だけ”なんて言ってたっけ。それを理にするのなら、私達の再開は確かに必然的なものだったのかもしれない。
私と縢秀星の関係とは、所謂幼馴染みというヤツだ。…と言っても生憎秀星は5歳の時にサイコパス検診に引っ掛かり離ればなれとなってしまったので、幼馴染みというにはあまりにも腐れ縁過ぎず、しかしあまりにもお互いを知り過ぎていた…気がする。まあ私は結局彼が恋しくて何度か更生施設に会いに行ったりしていたのだけれども。

「――久し振りじゃん」
「…ん。元気?怪我とかしてない?」
「してねーよ。…つかお前は俺の母親かっつーの」
「あはは…。まあ、弟のようなものだしね」
「え、名前の方が下っしょ!」

歩きながら自動販売機がある休憩スペースへと向かう。けらけらと笑う秀星は、確かに私の知っている秀星で。こっそり胸を撫で下ろした。
私が最後に秀星を見たのは、16歳の時だ。その時にはとっくに彼も隔離施設行きになっていた。…そして、結局私も。
思い返せば、何だかんだ結局私は秀星に甘えているだけの子供なのかもしれない。出来ることなら彼の側を離れたくなくて、必死で追い掛けて。――その結果がこれだ。他人から見ればさぞかし滑稽な事だろう。ミイラ取りがミイラになったようなものだもの。でも、後悔なんてない。これで良かった、そう思ってる。
 
「会いに行けなくなって、ごめんね」
「…あー、うん」

あまり弾まない世間話もそこそこに、話を切り出したのは私だった。
バツが悪そうに視線を逸らした彼もやはり、どこか思う所があったらしい。けらけらと笑っていた顔はいつの間にか、どこか頼りなさそうな幼い頃の顔になっていた。

「言い訳にしかならないんだけど、…聞いてくれる?」
「ん、聞くよ。…何となーく分かってたけどね」

眉尻を下げて困ったように笑う秀星。こんな所で会ったわけだし、さすがに理由なんて気付くよね。それでなくても察していたのかもしれない。普段はこんなでも、人の機微に敏感であるから。
…本当はずっと後悔していたんだ、あの時話せなかったこと。だからやり直させて欲しいだなんてただのエゴでしかないけれど、それでも。

「…分かると思うけど、私は今3係で執行官を勤めてるの。執行官になったのは最近、かな。でも、色相が濁って潜在犯になったのはだいぶ前で、あの日…秀星と最後に会った日の、翌日」
「…」
 
黙る秀星に、何となく顔を伏せる。自分の身勝手で悲しい思いをさせたのは分かっているから。まともに顔なんて見れるはず、ない。
 
「自分が分からない程幼い訳じゃなかったし、なんとなく色相の濁りが治らなくなってきてたのも知ってた。きっと、このまま私も隔離施設行きになるんだろうなって…でも、言えなかった、秀星には」
「っ何で、言ってくんなかったんだよ!…俺だってさすがに名前が無理してた事くらい分かってたよ。っけど、けどさ、名前が俺には笑うから、何も聞けなかった…。ガキだったし隔離施設に居る俺なんかが出来ることなんて何もない、聞いてもいいのかってずっと迷ってた!…でも、そんな事思ってる内に名前は居なくなるし、俺すっげー荒れたよ」

今までせき止めていた全てを吐き出すように一気に話す秀星はまるで泣いているようだった。そんな彼の吐露に、私は何故か驚く程涙が我慢出来なくてぼろぼろと泣いていた。

「っ、ごめ、ごめん、ね…っ」
「…あのさぁ。親にも友達にも見放されてた俺を唯一救ってくれてたのは…他でもない、名前だと思ってる。今でも」
「う、っん…」
 
嗚咽で言葉になっていない相槌しか出ない私に、秀星は相変わらず優しい。みっともない泣き顔を見られたくなくて、手で顔を覆ったけれどもその腕をそっと取られた。秀星の態度も、行動も、昔とは違う優しさだ。意識せざるを得ないような、甘い優しさ。私は抵抗をする事なく腕を引かれるまま、彼の胸に垂れ掛かる。

「――ずっとずっと、好きだった」

時が止まったような、そんな感覚。短い人生の中で、今が1番夢のような幸せを味わっていると断言出来る。 
 
「だからさ、もう俺の前から消えないでくんない?」 
「っ、うん…っ!」

ああ、もう。涙が止まらないや。ただただ泣きじゃくる私の頭を撫でる手に、更に涙が溢れてきてしまう。お互い踏み出すのが怖かっただけだったんだって今更気付いた。 
 
「しゅう、せいっ」
「…んー?」
「っすき、私もずっとずっと、大好きだった、よっ!!」

彼の背中に手を回し、ぎゅうぎゅうと苦しくない程度にきつく抱き締める。くっ付いている箇所から心の内が全て融解して混ざり合ってしまえるんじゃないかってくらい、きつく。ぴったりと。
 
「ばーか、知ってたっての」
「んっ」
 
徐に顎に手を掛けられて、上を向かされた途端に唇の温もり。秀星とキスしてるんだって遅ればせながら思った。ちゅ、ちゅ、と触れるだけのキスを何度も交わして、どちらともなく舌を混ぜ合う。別に初めてというわけでもないのに、何だか恥ずかしい。でもそれ以上に本当に愛している人と交わすキスは気持ちが良いものなのだと気付いた。

「さってと!もっとキスしててもいーんだけど、仕事も残ってるしね。夜にでもまた会いに行くわ」  
「っ、仕事中!!」
「何々、忘れてたの?忘れっぽいところ相変わらずだねー」
「うるさい…」

仕事中にキスに酔いしれてた…なんてとてつもなく恥ずかしいしただの給料泥棒じゃない!うわぁぁぁ、と自己嫌悪に落ちる私に、秀星は急に離れて、自動販売機で買った何かを持ってきた。…と思えば、頬にそれをくっ付けてくる。

「冷たっ!」
「ほれ、これで目元でも冷やしてから仕事行けば?」
 
こんな気遣いも出来るのか…なんて失礼な事を思いつつ、有難く缶コーヒーを受け取った。冷たくて、火照っている体がじんわりと冷めていく。
 
「…ありがと」
「どーいたしまして。お礼は今日の夜でいーよ?」
 
にやにやと気持ち悪い笑みを浮かべてそう言った秀星に、すぐに言っている意味が分かった。
  
「馬鹿、変態」
「あーらら。お口が悪いなあ名前ちゃんは。…別に俺は夜でって言っただけでナニとは言ってないんだけどー?ナニを想像しちゃったわけ?」
「ばっ、もう!早く行きなさい!」
 
おっかねー、なんて言いながら帰って行った秀星を見送る。手に持っていた缶コーヒーを瞼の上に当てて、ふう、と息を吐いた。この短い時間にどっと疲れてしまった…。今はまだお昼前、夕方までまだまだある。仕事を頑張らなければ。よし、と小さく呟いて立ち上がる。

「コーヒー飲みながら頑張りますか」
 
久し振りに何だか仕事が捗りそうだ。上司や仲間にどやされる事を思い描きながら走って3係へと戻った。
 
 
 
 
 
◎必然性と懐古  
170324. 

全ては必然的に起こる。
懐かしいと思う事は愛でること。故に記憶は美しい。

ただただ秀ちゃんにずっと好きだったって言われたかっただけ。よくよく考えると色々無視してるけどまあ良き。



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