※名前変換ないです。


――死ぬことなんて怖くないわ、
そう言っていた彼女は死んだ。犯人は未だに捕まっておらず、死体はバラバラに解体されてあちこちに棄てられていたところを朝早くに住民が発見した、という事らしい。しかし、まだ頭だけが発見されていないらしい。
通夜ではもちろん遺体を見せる事は出来ないらしく、遺影だけが葬式をつまらなさそうに一瞥している。…まだ、実感が沸かなかった。その内ひょっこりと「真くん」と話し掛けてくる気がしてならない。
最後に交わした言葉は今でも鮮明に覚えている。「誰かの幸せな記憶の中で生きるのと、辛い現実の中で生きるのと、どっちが幸せだと思う?」そう言っていた。彼女は分かっていたのだろうか、自分が死ぬ事を。もしも近い未来で冷たい骸に成り果てる事が辛い現実なら、話したその時の一瞬の口付けが幸せな記憶とでも言うのか。――どうせなら、ちゃんとした関係でありたかったのに。今更気付いたところで遅いのだが。

「…あの、花宮真さんですよね」

ぼーっとしていると後ろから不意に話し掛けられて振り返ると、彼女にそっくりな男が佇んでいた。きっと兄弟か何かだろう。そうですが何か、と返答すると、

「姉はあまり語ることは良しとしなかったので、手紙にしたためておいたようです、どうぞ」

姉ということは、弟か。弟もまた彼女のように無表情で何を考えているのか分からない。姉の葬式であるというのに、悲しんでいるようにはとてもじゃないが見えなかった。全くもって似ている姉弟なこった。では、そう言って弟とすれ違う、その瞬間。違和感を感じた。何が、と聞かれても答えられないのだが、何か。すぐに振り返って弟を眺めたが、あっちが振り返ることはなく、結局分からず終いだった。
葬式が終わり、家に帰って来た。部屋に入ってすぐさま彼女からの手紙を開いた。読んだ。

「…何だよ…っ、そういうことかよ!」

彼女に対しての怒り、悲しみ、憎しみ…そういう負の感情が炎のように燃え上がった。彼女の手紙の内容は、事の真相は、こうだ。

母親は彼女が産まれた頃に亡くなり、父親に育てられたそうなのだが、彼女と弟は幼い頃から父親に暴力を受けて育ち、愛情という感情に飢えていた。かと言って周りに相談出来るはずもなく、その想いは段々と歪んでいった。中学校に上がる頃に弟と交わり、愛情を分け合う関係となった。お互いがお互いに執着していた。それで幸せだったようだが、中学校3年の頃に父親が脳卒中で他界した後、彼女と弟は別々に親戚に引き取られることになった。簡単には会えない距離だった。彼女は寂しさで精神状態が不安定になった。何をやっても気が紛らわせることが出来なかった。そんな時。1人の少年に出会った。――俺だ。俺と話していると気が楽になって、落ち着くらしかった。でも、それでも、精神状態が限界に近かった。彼女は、計画を立てた。…自分で自分を殺す、計画を。
どうやって死んだのかは書かれていなかったけれど、今なら分かる。たぶん、弟だ。そして、あの時の違和感は笑った気配がしたからだと思う。確かに笑っていたんだ、纏っている空気が。
手紙の最後には、私の全ては×××(弟の名前)のものだけれど、真くんの全ては私のものであって欲しい。真くんの想いを知っていながら利用してごめんね。いつまでも私のことを忘れないで、記憶に残していて。私を幸せな女の子のままで居させて下さい。さようなら。
そう書かれていた。そう、俺はアイツの手のひらで踊らされていただけだったに過ぎなかった。俺に残されたのは記憶だけだ。これから彼女は彼女が望んだように、記憶の中で生き続けるに違いない。彼女が死ぬのは、俺が彼女の記憶を捨てた時なんだろう。だから、きっといつまでも忘れないだろう。愛しい彼女を。



***
◎記憶
それだけあればいい。

だいぶ前に書いてあった花宮。
これ、花宮じゃなくても良かったのでは…と今更。赤司様が1番だけど、花宮もかなり好きです←

161018.



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