※審神者が亡くなって暫く経った後。華が長になってから※



景観は春。心地のいい風が本丸内を吹き抜ける。
桜の花弁がふわりと舞い、空の色も主に似て優し気だ。

さらりと静かに筆を走らせて、歌仙は句を詠む。


―――歌仙!!


「・・・!?・・ある・・じ?」


視線を向ければ、いたのは幼き現主華。
気のせいか、しかし、良く似ていた声だ。


―――歌仙・・・。


おやおや、どうしたんだい華。


どうしたのだろう、顔が良く見えない。
呼ばれているのはわかるのに、何故??


急に眠気が襲う。
春の陽気にあてられてしまったのか?
華の前で眠るわけにはいかないじゃないか。
けれど、とても、眠いんだ。


「雅じゃないな・・・すまないね華」


―――少しだけ、眠ってもいいだろうか?





歌仙兼定!!起きなさい!!!



「はっ・・・は・・ぁ・・・ッぐ・・ぅ!?」


確かに聞こえた、あの声は・・・主?


目を見開き、息を吸い込む。
まるで呼吸を忘れていたかのように酸素を求める体。
意識を戻した瞬間に、体中に痛みが走った。
思わず胸をおさえて、凭れかかっていた木に全体重をかける。


一体、此処は、どこだ?


何とか呼吸を整えて、自身の状況を整理する。
刀はしっかり右手に握られていて、着物は血と泥で汚れている。
弱々しいが雨が降っている此処は、・・・・。


そうだ、確か自分は第二部隊を率いて戦場へ赴いたのだ。


「なんたる・・・無様な・・ッう・・ぐぅ・・ッ!!」


他の皆は無事だろうか、隊長を任されている自分が
これほど傷を負って、何とも情けない。


嗚呼、そういえば、主と初めての戦闘に出た時も・・・
こんな風に一人で傷ついて、心配をかけてしまったな。


鞘に結んだ包帯を撫でて、目を細める。
それをしっかりと認識したいのに、視界が霞む。


「・・・句を、詠まねばならない・・・のかな」


なるほど、先程のあれは、夢か。
地獄へと誘う甘い夢、何と酷いものだ。


―――ん―――


「・・・誰か・・・筆を・・・・っ」


―――――せ―――



「僕の・・・筆・・・を・・・」



・・・・・・―――――



とても、眠いんだ。


華、このまま眠ってしまっても、構わないかな?










―――歌仙!!!!
―――かせんッッ!!!!



「ッ・・・・!?」



あれは、・・・・・・主?






「申し訳御座いません!!歌仙!あなたにこのような傷を負わせて!」
「審神者様、御安心下さい。これは―――」
「黙りなさいこんのすけ!!歌仙!すぐに手当をしますから!!」
「落ち着いてください長様!?手入れ部屋に連れればすぐ―――」
「部屋へ行くまでも辛いでしょう!私はっ―――」


歌仙に辛そうな顔をしていてほしくありません!!



嗚呼、懐かしいな。これは、走馬灯か?
顕現し、初陣での出来事だな。
こんのすけが凄い剣幕で怒られていたな、確か。


彼女が、あんなふうに怒るなんて、想像も出来なかったのに。



「かせん!!!」
「ッ・・・ある・・・じ?」


霞む視界に見える黒髪。
主、君が、迎えに来てくれたというのかい?



「ひっく・・・かせ・・ん!!起きて!!!」



・・・・華?


「華・・・・ッ」
「!!・・・かせん、ごめんね!!」
「華様!歌仙がいたぞ!!」


ぎゅうとしがみついてくる華を何とか抱き返す。
傷に少し響いて痛かったけれど、今はその方が意識を繋げる。
どうして戦場に華がいるんだ、他にも疑問は山ほどある。
けれど、その答えを出させてはくれないようだ。


「ごめんねかせん!!かせんにケガさせちゃった・・・・」
「・・・・え・・・・」


重なって見える。傷のせいだろうか?


主と華。とても良く、似ている。
言う事もほとんど一緒じゃないか。

やれやれ、本当に僕の主は・・・




今も昔も、心配ばかり・・・・。



「き、きかん、しま・・すっ!!」
「帰還命令!皆、本丸に撤退するぞ!!!」
「二代目!しっかりしろよっ!!ほらっ」
「・・・・ふふ」
「二代目?」


記憶違いでなければ、この後手入れ部屋で
包帯をこれでもかと、巻かれるんだろうな。


そう考えて、思わず笑みを浮かべてしまったけれど。



――――――・・・・。



景観は春。心地のいい風が本丸内を吹き抜ける。
桜の花弁がふわりと舞い、空の色も主に似て優し気で。

さらりと静かに筆を走らせて、歌仙は短冊を置いた。


「かせん!!」
「やあ、華」
「まだお布団にいないとだめ」
「大丈夫だよ。寝ているほうが辛かったからね」
「むう・・・」
「本当に、大丈夫さ。手入れ部屋にも入ったのだから」
「でも・・・」
「本当に・・・華も・・・」


主も、心配性なところは、瓜二つだ。


「庭を歩きたいな。桜を見たい。」
「華もいっしょにいく」
「それはそれは」
「かせん?」
「すまない・・・華と共に花見が出来るなんて・・・―――」


この中からお好きな刀をお選び下さいまし!!
一振が、長様の最初の刀になるのです!!


細く白い指が、鞘を撫でる。
とても優しいそれは、迷うことなく。


僕に伸ばされていて、触れていて。


「・・・・歌仙、兼定・・・」


どうか、私の元へ・・・・。





「――――恐悦至極」




――――あとがき――――


歌仙兼定、審神者の昔話を少々。
審神者が長になったときと、華と
ほとんど姿は変わらない為重なって見えたと。
勿論華は大事だし今は自分の主であるけども
やっぱり主の初期刀である誇りも忘れず
何時までも歌仙の主は今は亡き審神者なのである。
恋心はあったかどうかは歌仙しか知らないけども
互いに尊敬しあい、教え合い、日々過ごした
大切同士であったことは間違いない。

以上、歌仙さんのお話でした。








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