ぱかりっ!


朱色のがま口財布を真剣な表情で開けて
華はお金を差し出した。


「毎度有難う御座いました!」


買い物籠は厨からしっかり持ってきていて
そこに三日月から頼まれたみかんとお団子を
華は壊れ物のようにそっと入れた。


「(どきどき、した・・っ!)」


門の外に万屋があり、その道を通ったことがないわけではない。
しかしそれはかなり前のことで、前審神者がまだ自身で動ける時に
一度だけ一緒についてきただけ。つまり記憶がほとんどなかった。


自分でみかんを選ぶのも、お団子を選ぶのも初めてである。
本丸にいれば食事は出てくるし、欲しい物もそろっている。
不自由はない、けれども華はどこか窮屈に感じていた。


審神者の長、前審神者の長の娘、これは本丸の男士と空木くらいしか知らないが。
長だから、怪我をしないように、まだ小さいからいいんだよとか。


華だって、皆のお手伝いがしたい。


何だって出来るわけじゃないけれども、どんなことでもいいから
役に立ちたい、そう思った。そして、思いついたのがお使いだった。


皆気を遣ってか、反対に自分が買ってくると言ってこられてしまう。
困っていたところを三日月が見つけてくれて。


「後に江雪らと茶会をするんだが、茶菓子があるといいなあ、団子とかあれば嬉しいんだが」
「!!華がお買いものいってくる!」
「はは、そうかそうか。それは有難い、ならば小夜もくるから、みかんも頼もう」
「うん!!」


籠の中には、ちゃんとお団子とみかんが入っている。
あとは来た道を帰るだけだ。大丈夫、一本道だ。


よいしょと籠を持ち直し、華は万屋を出て行った。



―――――・・・・


「は・・ッはぁ・・・!」
「あんの・・・じいさんっ!」


むちゃくちゃ混乱してんじゃねえか!!


そう叫びながら、三人は道を駆け下りていく。
鶴丸曰く、三日月は父親として華の意志を
尊重してやったのだろうと。
そこまではいい、そこまでは皆理解できる。


だが、あの天下五剣ともあろう三日月が、
華を心配するあまり、震えていたのだ。
本人は気づいていないようだが、長年の付き合いの
鶴丸にはすぐ様子が伝わった。


「すれ違わない・・・ねっ!」
「まだ・・・店にいるんじゃないかっ」
「・・・・・っ」


目指すのは万屋だ。頼んだものはそこで手に入る。
お団子は甘味屋でも手に入るが、恐らく華はそこへは行かないだろう。
あの娘は賢い。能率の悪い動きはしないはずだ。


「おや、光忠様」
「!・・ああ、店主じゃないか」


途中急に声をかけられ、足を止める。
その店は万屋の少し手前にある米屋だ。
この町に存在するのは人間ではなく、わかりやすく言えば
鍛刀の際に出てくる妖精の仲間のようなものだ。
米屋の妖精店主はにこやかに顔をのぞかせる。


「血相かえてどうしたんですか?」
「あ、ああ・・・万屋に主が行っているみたいでね」
「主?・・・ああ!先程お帰りになられてましたよ!」


え・・・?



そんな筈はない、ここまで来るのに一本道だ。
迷うことの方が難しいじゃないか。


しかし、三人とも、誰も華とすれ違っていない。
帰ったというのならば、目の前に歩いてくる筈なのだから。


「万屋からにこにこしながら出てこられて、ちゃんと来た道を帰ってましたけど」
「そ、そう・・・ありがとう・・・」
「・・・嘘だろ・・・おい・・・こんな驚きは、いらないぞ・・・」
「・・・馬鹿な・・・」
「え・・・これ・・・って」


頬を濡らし、そして体全体を濡らしていく水滴。


雨だ・・・・。


「おいおい、どうなってるんだ」
「ありえない・・・景観は夏のしかも晴れだよ」


雨を選ばない限りは、急にこんな風に降ってきたりなんて。


―――ら・・・ちゃ・・・


「?・・・・」
「大倶利伽羅?」



か・・・・ら・・・ちゃ・・・―――




「(泣いてる、のか?・・・あいつ・・)」


微かに、雨粒が当たるたびに声が聞こえる。


まさか、この雨は華が泣いているから?


「ちょ、どうしたの?」
「・・・あいつが・・・・どこかで泣いている」
「え・・・華ちゃんが?」
「声が聞こえる・・・雨に混じって」



おつ・・・・る・・・・


「!・・・お嬢?」




・・・・み・・・・つ・・・・


「!!・・・・華ちゃん」



聞こえる、場所まではわからないが、確かに声が聞こえる。



「別れて探す、俺は念の為町の中、光忠と大倶利伽羅は段々のとこだ」
「わかったよ・・・」
「・・・・・ああ」
「万屋見回ったらそっちに向かう!」











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