「華、夕方には戻りますから、良い子で待っているんですよ?」
「あい!ばっちゃ、まってる!」


ぎゅうと審神者にしがみついていたのを何とか我慢して離れて、
転送門の光が消えるまで、華は見送り続けた。


――――・・・・


井戸の水を汲み、運び終えた小夜は桶を元の場所へ戻す為に庭に出ていた。
ふと、気配を感じて視線を巡らせる。人の気配、誰かいるのだろうか。


「・・・・孫様?」


納屋の近くはあまり誰も近づかない。
そんなところで一人何をしているのだろうか。
小夜は静かに華に近づいた。


「あ!さよちゃん!」
「・・・何してるの?」
「んとね、おりょうり!」
「・・・・」


土の団子に、木の実を葉にのせている。
他にもどこから集めてきたのか色々な物があった。
そういえば今日審神者は総会という大事な用事に出ているんだったと
思い出して、小夜は華を見つめた。

どうして、本丸に男士は当然残っているのに、


誰にも声をかけないで、一人で遊んでいるんだろう。


自分の中にぐるぐると渦巻いた感情は何なのかわからない。
けれど、小夜は思うままに行動してみようと思った。


――――・・・・。


「・・・兄様・・」
「何をしているのですか」
「にいさまおかえりなさい!」
「・・・・はい?」


主の孫である小さな華から、「にいさま」と呼ばれてしまい
思わず少し固まってしまった江雪であるが、小夜と華の状況を見て
すぐに理解することが出来た。しかし小夜がこうして行動するとはと、
驚くことばかりである。


「おひるごはんはおにぎりだよ!」
「・・・・・成程。そういうことですか」
「!・・・兄様?」
「いただきましょうか」
「どうぞめしあがれー!!」


綺麗な花びらに包まれた土の塊。
それでも、とても嬉しそうに華が笑うから。
江雪は小さく微笑んで、頭を撫でてやった。


―――――・・・・・。


「・・・・これはどういう状況だ」


昼餉の準備をしたのに誰も現れないのを気にした
今日の当番の長谷部と一期が様子を見にきたとき
信じられない光景が広がっていた。


「そうざにいさまおかいものいきましょー!」
「いいですよ、何を買うんですか」
「えと・・・えとね、かせんにいさまのおふででしょ」


それから、くににいさまのおせんたくのいたと、
きよちゃんのおけしょうどうぐ!
やすちゃんのかみどめ!
さよちゃんのかきに、それからね、それから!


楽しそうにはしゃいでいる華様が次々と呼ぶ者に、にいさまとついている。
中にはちゃん、等と呼ばれている者もいるが。


「何を突っ立っているんです長谷部」
「宗三・・・」
「はせべ!いらっしゃいませ!!」
「な・・・っ・・・!?」
「ほら、今華は店主ですよ。何か買っていきなさい」
「(いや待て何時の間に店主になったつい先程買い物にいくといっていたではないか)」


困惑している長谷部の横を、すいと一期が並ぶ。
しゃがみこんで華と目線を合わせる一期。


「何の店ですかな?」
「なんでもやさん!」
「ふふ・・左様ですか」
「どれがいいですかおきゃくさまー!」
「そうですな、ではその白い花を頂戴しましょうか」
「ほほう、あるじさまもおめがたかい!」


華の言葉に一振と一匹がぴくりと反応し
凝視している様に、一同は笑いを堪えるのに必死だ。


「御幾らになりますかな」
「はっぱいちまいです!」
「!・・・」
「一兄・・・ちゃりちゃりとか言うだけでもいけるぜ・・・」


ぼそりと薬研が助け舟を出し、華からもらったであろう
木の実を食べる仕草を見せていた。
「おかわりありますよー!」と言う華に「大将太っ腹だねぇ」と
しっかり返している辺り薬研も満更でもなさそうだ。


「はせべ!」
「は、はい・・・っ」
「あのね、みんな華のかぞくなの!」


きよちゃんもやすちゃんも、かせんもみんなにいさまなの!
さよちゃんやまえちゃんにひらちゃんはおとーとさま!
とんぼのちちさまに、いしきりのちちさま!
言いだしたらきりがない。


にこにこと嬉しそうに笑う華に、長谷部は思う。

華様はきっと、寂しかったんだろうなと。
こうして笑顔でいるが、きっと内側は不安や寂しさを抱えているだろう。
それでも、こうして笑っておられるのは。


「華はいっぱいきょーだいがいるからうれしいな!」
「ほら、ぼさっとしていないで早く加わりなさい」
「うるさいぞ宗三・・・当たり前のことを言うな」
「あ!にいさまゆあみのじゅんびができましたよー!」


ガタリ!!と、場の空気が一気に変わったような気がした。



―――――・・・・・。


「で、この有様、か」
「ふふ・・・微笑ましいではないですか三日月」


総会から帰還した審神者と三日月が見たのは
大広間でぐちゃぐちゃに雑魚寝して、その中心で眠る愛しい子供の姿。


「(俺も加わりたかったな)」


なんて、こっそり思ってしまっていたなんて、
知る者は誰もいないのだけれど。










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