秋の虫の声が庭から聞こえ始めた頃。
華は庭で灯りも持たずに佇んでいた。
本丸の中とはいえ、暗がりに一人。
長谷部や小狐丸、他の過保護な男士に知られでもすれば
また心配されてしまうだろう。


「何してるの?」
「!・・・さよちゃん?」
「夜も遅いよ、いつも、寝てる時間だよね」
「・・・うん」
「?・・・・・」
「さよちゃんは、どうして起きてるの?」
「ぼくは、夜戦から戻って湯浴みしてきたんだ」
「そっか。おつかれさまだね」


どうやら、何故庭にいるのかの答えは貰えそうにない。
けれども小夜は華がとても寂しそうに見えた。


「さよ、ちゃん?・・・わっ!?」
「・・・・来て」


華の手を引いて、小夜はある場所へ連れて行くことにした。



―――――・・・・・。


「・・・・どうされたのですか」
「おや、珍しいですね」


華は別段江雪と宗三を苦手としているわけではない。
けれども、どういう訳かあまり話をしたりすることは今までなかった。
どちらかといえば、宗三から避けられている気はしていたのだ。
それがまさか小夜に部屋へ連れられるとは思っていなかったので
華は目を丸くして少し困惑していた。


「眠れないみたいだから、連れてきた」
「そうなのですか?」
「・・・・」
「黙っていてはわかりませんよ、華」


宗三の手は優しく華の頭を撫でる。
宗三は前審神者によって顕現された、そして早めに本丸に入った男士である。
故に、前審神者のことも、華のことも見てきたのだ。


だからこそ、宗三は華に近づくことも、前審神者とも距離を取っていた。
嫌いだという訳ではない。ただ、前審神者と、華があるものに見えてしまうのだ。


そう、不自由なく暮らしていけるようでいて、此処は檻だ。


審神者の長となる人間は、この特殊な謎の空間で過ごす。
時の流れは遅く、不老の域に達するのではないだろうかと。
前審神者に関しては、現世にて時の流れの影響を受けたこともあり
亡くなったのだが、華はどうだろうか。


このままずっと、政府、又は戦場へ出向く以外でどこにもいかないのであれば。
彼女はずっと、幼い姿のままでこの場で生き続けるということになるのではないか。


籠の鳥、等と言うものではない。無限の牢獄ではないのか。


この幼い審神者には、恐らくそういうことは頭の片隅にもないだろう。
そして、そんなことを考えているのは恐らく自分だけだろう。


憐れむというのは、華を馬鹿にしてしまうのではないか。


等と、自分で勝手に思考を巡らせて、自己嫌悪を起こしたりして
そのせいで華と妙な距離を取ってしまっていたなんて。
口が裂けても、言えないことだ。


だからこそ、今こうして偶然とはいえ華が部屋へ来たことは
内心嬉しくないこともないのである。


「宗三・・・・」
「何ですか兄上?」
「華が眠そうです・・・それ以上撫でると眠ってしまいますよ」
「!・・・おやまあ」
「おへや・・・もど・・る」


ふあ、と欠伸をこぼす華の目は限界を訴えていた。
敷かれた布団は当然人数分だ。けれども華は小さい。
何の問題もないだろう。


左から宗三、華、小夜、江雪と並んで灯りを消す。
秋の虫の鳴き声、風のそよぐ音しか聞こえない。


「・・・み・・ん、な・・・・」
「華・・・おしゃべりはやめて寝なさい・・・・」


おやすみなさい・・・・


静かな音の中に、小さな寝息も混じる。
それに誘われるかのように、寝息の数は増えていく。


「・・・小夜は、あなたの気持ちに気づいていたのかもしれませんよ、宗三」
「!・・・・・そう、なんですかね」


距離感があることを気にしていたのを、悟られていたというのだろうか。
恐らくこの口ぶりからして、江雪にも何かしら悟られているのだろう。
苦笑し、真ん中で丸くなって眠る二人を見つめる。


「これが、兄上のいう・・・」
「?・・・」
「和睦、というのでしょうかね」
「・・・・ですね」



夜は静かに、過ぎていく。




―――――おやすみなさい。










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