「ッ・・・華!?」
「主様ッ!!!」


庭に現れた歪みの渦の中から、小さな白い手が微かに伸ばされている。
その手に、普段戦にて相手にしてきた歴史修正主義者の短刀の骨の尾の
ようなものが巻き付いていくのが見えた。


「貴様ぁ!!!ッ主様を離せッ!!!!」


毛を逆立て抜刀し歪みに小狐丸は飛び込んだ。
三日月もそれに続いて歪みに飛び込む。


「華!!」
「三日月!小狐丸!!」
「歪みが閉じた・・・入れたのは僕らだけか」


鶴丸と歌仙も抜刀し、辺りを警戒する。


突然閃光が走り、浮かび上がるそれにゆるりと目を開けた。


『僕は、歌仙兼定。風流を愛する文系名刀さ』
「え・・・あれは・・・僕、なのか・・・」


新たに産れる光の中、見えたのは初めて歌仙と審神者が鍛刀しやってきた平野の姿。


次々に浮かんでは消える光、これはひょっとすると。


「審神者の、記憶か?」
「恐らく、そうだと、思う・・・」



俺の名は三日月宗近・・・天下五剣の―――



     わっ!!あっはっは!!どうだ?驚い―――


  大丈夫だよ、主・・・雅じゃないけれどもね――――――


 小狐丸がもうすぐ出来上がりますよ。たのしみ――――


――――母上様!!私は審神者にっ



    空木、どうか、赤子だけは守って・・・・




『なんて、可愛らしいのでしょう!』
『ふふ・・・こんのすけ、起きてしまいますよ』
『綺麗な黒髪ですな、長様』
『・・・・っ―――。』
『それは、真名ですかな?』
『ええ。・・・・ふふ』


大丈夫ですよ。私が、貴女を護ります。大切に。


「本当ノ名デ、呼ンデアゲラレナクテ、ゴメンナサイ」


聞こえた声に、逸早く振り返ったのは小狐丸だった。
骨の蛇が華に絡みついて、赤い眼を光らせている。
華は俯いていて、表情は見られない。


「華様!御無事で!?」
「・・・小狐丸・・・」
「華・・・様・・・ッ?」
「盗マレテ・・・助ケニ行ケズ、申シ訳ゴザイマセン」
「お嬢・・・・様子が・・・」
「操られているようだけれど・・・殺気は・・感じないな」


ぽつりぽつりと出てくる言葉。
三日月は真っ直ぐに華を見つめて、一言も漏らさないように聞いていた。


「オ鶴ヤ・・・華ヲ見守ッテイテクレテ有難ウ」
「ッ・・・君・・・まさか・・・」
「歌仙・・・・黙ッテイテ、スミマセンデシタ」
「・・・・主・・・?」


華の足元に、ぽたりぽたりと水滴が落ちる。
止まることをしらないそれは、嗚咽と共に言葉も吐きだす。


「ゴメン、ネ・・・」


娘と、呼んであげられなかった。
呼んであげたかった。皆にも告げてあげたかった。
私にもっと、力があれば、あらゆるものから、護れたのならば。


勇気があれば、貴女は・・・・。




三日月・・・・。


華と視線が交わっているが、三日月には見えていた。
他三人にも、勿論。見えていた。華の後ろに、薄らと浮かぶ。


――――懐かしい、若かりし頃の、審神者の姿が。



「・・・っ」
「何だ、審神者よ」
「・・・・みか、づ・・き」
「・・・すまんな。俺は、ずるい・・・」


一歩だけ、踏み出して、三日月は口を開いた。


「聞かせてくれないか?・・・・っ『―――』よ」
「ッ・・・ふふ・・・やはり、あなたという人は・・・」
「嗚呼・・・お主も変わらないな・・・すまんが、まだそちらには行ってやれそうにない」
「神が同じところに、来れるわけがないでしょう・・・ふふふ」
「俺から、先に言わせてもらおうか・・・」





すまなかった。そして、有難う・・・・。







「目合いはなかったのは事実。けれども俺の血が―――と混ざり産れた子・・・」
「・・・・・・」
「現世では、辛かったであろう・・・不安であっただろう・・・それでも」




それでも、産んでくれて、本当に有難う・・・・。



「この世に授けてくれたことを、礼を言いたいッ」
「ッ・・・」
「安心してくれ・・・華は、大切に・・・護り続ける」
「・・・・・ッ三日月」



アリガトウ・・・・。



華・・・、私が消えれば、貴女に意識が戻る。


今のやり取りも、記憶も、全て見えていた筈。


まだ小さな貴女が、どんな答えをだしてもいい。


けれど、一つだけ、願うことは。



父と呼ばなくてもいい。今までのままでも構わない。



三日月や、皆とこれからも、今まで通り、幸せでいてほしい。



勝手なことばかり、言います。



そろそろ、時間です。



「お鶴や・・・」
「嗚呼・・・お嬢は任せておけ。」
「歌仙」
「・・・また、君に会えてよかったよ。主・・・」
「小狐丸・・」
「・・・・・・・」


審神者殿とは、こうして直接お話ししたことはございませぬが、
私からも一言、お礼を申し上げたい。


「華様に出会えたことは、審神者殿あってのこと。私を鍛刀して下さり、感謝を」



薄くなる身体。軋む蛇の骨。砕けてしまえば消える。


「三日月」
「嗚呼・・・わかっている。そういうお前だからこそ、俺は・・・」



パキリと、骨が砕けて歪みが消える。



「華様!?」
「三日月っ・・・!!」


華の体は三日月に抱かれ、泣き続けていた。
三日月は何度も頭を撫でて、相槌を打つ。


「みかづき・・・っひく」
「嗚呼・・・」
「みか・・・づ・・・っき・・・」
「嗚呼・・・華、どうか泣き止んで欲しいなあ」


そして、いつもの変わらぬ笑顔を見せてほしい。


ぎゅうと三日月の着物の裾を掴んで。
華は涙でくしゃくしゃになった顔を微笑ませた。


ありがとう、ははうえさま。













       ありがとう、    







             













            ちちうえさま。














華に真実が告げられたこと、本丸の皆に知れたこと。

それが、政府の空木の耳に入るのは、もう少し後の、お話。



―――真end







―――――あとがき


はい、御婆審神者と三日月の関係と
まさかの鶴さんの秘密解禁のお話でした。
華はこれからも三日月のことを三日月と呼ぶのですが
この件でしっかり自分の父親と母親が誰なのか認識しましたので
でもほとんど何が変わるということはなく日々を過ごしていくんですけれども。

実は密かにメルフォ、拍手にて御婆審神者と三日月さんの
関係というか、恋愛というか、月が泣いた日の感想を
ちょこちょこ頂いておりました。故にこういう形をとり
御婆審神者に救済措置を取らせて頂きました。
鶴丸はちょっと可哀相な気がしますが、彼は審神者が幸せであることが
一番の幸せだと考える鶴丸国永なのです。

では、以降から短編にて他まだ出てないキャラを登場させていきたいと
思いますので、これからもよろしくお願い致します!


長々と、ここまでおつきあい頂きまして、本当に有難う御座いました!!

H28.9.8










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