「こまる、遅いな」


空木から言われている資材や本丸の状況を書いていた手が止まる。
流石に審神者になったからと言えど、まだまだ幼い故に、飽きてしまった。
誰かこないかな、と。そわそわしていれば。
庭の方に気配を感じる。筆を置いて障子を開ければ。



「え・・・・」


懐かしい、姿。
その穏やかな、優しい笑顔。
間違えたりなんかしない、間違えるはずがない。



「ばっ・・・ちゃ・・・・」


嘘だ。気絶しているときにお葬式があったって。
ばっちゃは皆に見守られて眠ったんだよって。



・・・・っ――――



「!?(華の・・・真名・・・)」



聞き覚えのある声から発せられた真名。



・・・来なさい。


体が勝手に動き出す。名の縛り。
真名を知っているのは当然自分自身と、大好きだった目の前の人だけ。


でもどうしてだろう。本物だと思えない。


「っ・・・だれ、か・・・み――」



話さない、華・・・


口を閉じられた。どうすることもできない。


誰か、誰か・・・・っ!!!


―――――――・・・・・。



本丸の男士らは、狐の咆哮に唖然とし、
紡がれた言葉の意味を計りかねていた。


「小狐丸・・・落ち着け」
「落ち着いております。いい加減はっきりさせておこうと思いまして」
「それは、ここでいう事じゃないだろう」
「いいえ、皆にも知らせるべきです。」



華様が、三日月と血が通っていると。


作業をしていた者の手が止まる。
皿を落とす光忠、何か思うところがありそうな歌仙の表情。
鍬を手放した大倶利伽羅に、追いかけっこをしていた足を止めた短刀達。
洗濯物の山を見事に崩した兼定に、自主練習から戻った長曽祢と沖田組。
騒ぎを聞きつけていた他の男士らも、時が止まったように動かない。


止められなかったかと舌打ちする鶴丸に、無表情の三日月。



「言う機会を逃したのでこの場で言いましょう」


華様がこの小狐と初めてお会いした際、気が動転していた私は
華様の首筋に牙を立てました。


「それで・・あのとき首に・・・」
「ええ。今でも微かに痕が残り、申し訳なく思っております」


その際に、体内に流れ込んだ霊気の中に、神気も感じたのです。


その言葉に、鶴丸は溜息を吐く。
これはどう言い返しても体で直接感じてしまっているのだ。
言い逃れなどできるわけもないし、むしろ答えが出てしまっている。


「前の審神者を私は知りません。故にその方が元々神気をもっているのかと思っていたんです。最初はね」


ですが、先程華様の目に月の模様が見えました故に。
居てもたってもいられずこうして直接尋ねにきたのですよ。


「嘘・・・主と三日月さん・・・ほんとにそういう関係だったの?」
「え・・・っていうか、そうじゃないの??」


安定と清光が不思議そうにしている様に、三日月は目をきょとんとさせていた。
それは鶴丸も同様で、他の皆も、似たような反応をしている。


「御法度だったじゃんあの時」
「うん。だから上手いこと隠してるなって思ってたんだけど・・・」
「お主ら・・・それは・・・どういう・・・」
「え?・・・だって、ねえ清光」
「う、うん・・・だって・・・主隠すの凄い上手かったけど」


目が、三日月さん追ってたよね。


「すまないね、三日月。僕も何となくだけれど、そんな気はしていたんだよ」
「石切丸・・・?」
「この際だから、僕も便乗して零させてもらうけれども・・・」


固まっていた歌仙が三日月をどこか睨むように見ているのは気のせいだろうか。


「彼女の気持ちに、気づいていなかったのかい?」
「・・・きも、ち・・・」
「はぁ・・・・似た者同士、なのかな・・・」


僕は彼女の初期刀だ。一番付き合いが長い。
大和守と加州、石切丸が気づいているのは意外だったが


確かに主は、彼女は秘密にすることが凄く上手だったよ。
だから僕も気づくのは遅かったさ。


「まあ、彼女も相手から想われていることまでは知らなかったようだし」


互いに、想いあっていた事実。


伝えることは、出来ないのだと。


「でも、孫様が二人の子供だったなんて・・・」
「それは、僕らも知らなかったよ・・・」
「抑々、主の子供であると思わないだろう普通は」


額を抑えてしまった歌仙と、困惑しだした清光と安定。


「でも、納得出来た、かな・・・僕は・・華ちゃんの霊気は、確かに彼女と同じように、温かいからね」
「・・・・ああ」


皿の破片を集めつつ、塵取りをさりげなく渡す大倶利伽羅に光忠は言った。


三日月は俯いて、この身で初めて感じる感情を処理できないでいた。


純粋に、嬉しかった。己を好いていてくれたということが。
悔しくて、手が震えてきた。何故告げようとしなかったのか。
悲しかった。どうして、伝えてくれなかったのか。
酷く胸が、痛んだ。もう、二度と会うことは出来ないのだと。



――――みかづき・・・



「!?」
「・・・どうした?」


今、誰かに呼ばれた気がした。


そして、三日月の脳裏に、愛しい子供の姿が浮かぶ。


「華・・・?・・・小狐丸、華は」
「?主様ならば、お部屋に・・・」
「・・・行かねば・・・華・・・っ!!」


三日月の珍しく焦る様に、小狐丸は何かを感じ取りその後を追った。
それを少し遅れて、鶴丸と歌仙が追う。


嫌な予感がする。何故か止まない胸騒ぎに、

ただ、何もないことを、祈った。









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