ひらり、ひらり


小さな淡く色づいた花弁が部屋に入り込んでくる。
それを細い指先で摘み、見つめた。
布ずれの音と、微かに聞こえる風の音。
庭で駆けまわっていたのが、ずいぶんと前に思えてしまう。
少しだけならば、出てもいいだろうか?


「こら!少し目を離したらこれだ。悪い主だね」
「みつ・・・」
「う・・・っ、だ、駄目だよ華ちゃん。折角綺麗にしたんだから」
「でも、桜がきれいだから近くで見たいな・・・」
「気持ちはわかるけども、まだ元気になったからって――」
「なれば、この狐めが抱いてお連れ致しますれば」
「ちょっと!?小狐丸さん!!」


ひょいと抱えられて、緩やかに庭に連れ出す小狐丸に
燭台切の驚いた声が響くが、やれやれと諦めた感じで


「もうすぐ時間だから汚さないように!!」


と、笑ってその場を後にした。


「御加減は如何ですか、主様」
「もー。大丈夫なのに」
「そうは参りませぬ。大事な御身に何かあってはこの狐が困ります故」
「お衣裳重くない?」
「とんでもない。軽いくらいです羽根のようで」


あれから、医師の許可も下りて華は無事に回復することができた。
それは本丸にいる男士にはその身でわかる程で、溢れる霊気で
結界も強まる程であった。刀装もごろごろ金色が出るくらいだった。
どういう状況であれ、小狐丸は相変わらず、それ以上に華の傍にいようとして
他の男士に戒められて引き摺られていくことも見かける。それをみて笑うのが日常だ。


そして、先日新政府から届いた文。



そう、本丸の皆が待ち望んだ日がやってきたのだ。


「お嬢ー!此処にいたか」
「お鶴!」
「華、そろそろ時間だ。さ、参ろう」
「うん?・・・三日月?」
「忘れ物だ」


そっと足にふれて、赤い綺麗な下駄を履かせてくれた。
その表情はとても穏やかで、とてもきれいだった。


―――――・・・・。


過去、前審神者も儀式の際に訪れたと聞く空間。
神聖な雰囲気を纏い、神域のようにも感じられる。


「これより、審神者の儀を執り行う!!」


どどん!と腹に響く太鼓の音を合図に、
壇上へ華は登る。そこは広い舞台で新しい木の匂いがした。
動きにくいが、正装である着物を引き摺り、何とか舞台への階段を上りきった。


顔は薄い布で覆われ、そこには審の字が書かれている。
本来これは審神者になる者が書く決まりなのだが。


すっと、手に持っていた鈴を掲げて、舞を開始した。


シャン・・・・


一鳴らしし、くるりと回る。


「僕が書いて、よかったのかな・・華」
「うん・・・有難う、歌仙」


聞こえぬ程に小さな声であったが、布ごしに見える優しい微笑み。
そう、紙に文字を書いてほしいと頼んだ男士。歌仙が一礼し、すっと舞台の隅へ移動する。


シャン・・・


「俺のちゃんとした主になってわかったろ?誰が一番かって」
「ふふ・・きよ、大好き」
「っ・・これから改めて宜しくね、主」


シャン・・・・


「御願だから、体には気を付けてよね」
「わかってる。やす」
「うん。・・・頑張って」


今いる本丸の男士を、鈴を振り霊力を消費し呼び出す。
これが儀式で一番体力を消耗する。

前審神者の頃からの刀剣を引き継ぐ故に、時間も体力もその分かかってしまう。
例の一件もあり、この儀式を取りやめることも提案したのだが、華が頑なに拒否したのだ。


必ずやり遂げる。無理は絶対にしない。


これである。


シャラン・・・


「粟田口、推参致しました。」
「!・・・っ」
「一振りずつ、という決まりはないはず・・・」
「短刀なら霊力の消費が一振りずつより一度の方が少ないって聞いてね」
「俺っちが提案したんだ・・・大将」


危ないと判断したら速攻で止めに入るからな。


「華・・・頑張って!」
「御傍に控えてお待ちしております」


シャンシャン・・・


どれくらい時が流れたか、汗が流れおち、息が上がる。
舞台の端で見守る男士らは、心配はすれど必ずやり遂げると信じていた。
下で見守る関係者らは、ただ茫然とその光景に見惚れている。


「まるで、前審神者様を見ているようだ・・・」
「否、それ以上に・・・美しい・・なんと清らかな霊気」


まるで、神のようだ・・・・


シャン・・・


白い着物が目前に跪いた。


「お嬢・・・」


着物に負けぬ白い手が伸ばされそうになる。
その表情に笑みはなく、どこか険しい。


「・・・・いけるか?」
「・・・やる」




くっ・・・ははっ!それでこそお嬢だ。


険しい顔が晴れて、伸ばされそうになった手がひっこんだ。
体力の消耗を見透かされている。けれども、鶴丸は見守ることを選んでくれた。


もう少し。もう少し。



シャン!シャン!!


これは、刀に宿りし付喪神達と


共に生き、闘う審神者成る者の、物語。



「華」
「華様」


どどん!


終わりを告げる太鼓の音。
傍らには美しき三日月。
もう傍らには高潔なる小狐。


舞台の前へ移動し、その手を二振りがとり、誘導する。


「此処に、新たな審神者に呼応し集うた付喪神に認められた事を宣言する!!」


空木の声が響き、華が一歩前へ踏み出す。
政府の者らは頭を下げる。


すう、と息を大きく吸い込む。


「審神者様、号令を・・・」



「抜刀!!!」


ざっ―――!!!


後ろに控えていた男士らが、刀をぬいて掲げる。
傍らの三日月と小狐丸は柄に手をかけ、跪く。


ばっちゃ・・・華は、みんなを護ってばっちゃみたいに、審神者になるよ。


昔、一度だけ教えてくれた、あの言葉を号令に・・・。


後に皆が目を見開いて、驚いているのを見ることになる。



さあ、これから始まる華の物語。



「刀剣乱舞!始めますッ!!!」




―――――終――――――












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