49話の幼審神者が本丸で苦しんでる時の詳細。
光忠の食事をひっくり返したこととか、他に
悲しいことしか書いてないので苦手な方はスルーして下さい。


―――――・・・・。


政府の機関から連れ帰った華が最初に目を覚ましたのは、
騒動から4日経った、昼のことであった。


その頃にはすでに本丸の空気は完全に華の霊気で満たされていて安定していた。
故に男士らは皆人の姿で帰りを待っていたのだ。
直ぐに動けるように本体に戻らず待っていた清光と安定は
華の様子を見るや慌てて駆け寄ってきた。


「華!!?・・・なん、で・・・ッ血・・!!」
「嘘・・でしょ・・・あの人みたいに・・・何で血・・・口から・・・」


言いたいことも気持ちもわかるが、何よりも先に回復をはかる必要があった。
心苦しいが二人の前を足早に通り過ぎる。
放心状態の二人には、堀川と兼定、政府から戻った長曽祢も三日月らから離れついてやることにしたようだ。


「薬研、手伝えることがあるならば言って欲しい」


粟田口兄弟は、一期を筆頭に薬研の指示を待った。
皆心配の色を隠せてはいないが、何か出来ることはないかと
出来るだけ落ち着いている様子を見せた。


「厚は井戸で水くんできてくれ」
「おう!任せとけ!!」
「平野と前田はこんのすけについて政府の医者の爺さんとこで容体を説明して薬やらわけてもらってきてくれ」
「お任せ下さい!」
「いってまいります!」
「五虎退はありったけの布を調達してくれ。体を清めたり色々使うからな。なるべく清潔なやつだ」
「はい!!」
「乱は俺っちが言ったものを渡してくれ。いち兄は華の体動かす時に手伝ってくれや」
「任せてよ!」
「ああ。了解したよ」


各自速やかに動き、てきぱきと作業をこなしていく。
念のために外傷がないか、診れるものはすべて見ていく。
医療に長けているのも、前審神者の主治医であった政府の医者から習ったことが大きい。
しかし、言ってしまえば所詮は刀だ。限界は当然ある。

けれども、薬研は自分が出来る最大限のことをするつもりであった。
それ以上も求められるのならばこなして見せると。



帰還初日、本丸の誰もが眠りにつくことはなかった。



そして・・・・。


「!華ちゃん」
「・・・・」


薄ら目をあけて、天井のどこをみているのか。
焦点の合わないぼやけた瞳がゆったりと巡る。
その様子に光忠は心を痛めたが、今は目を覚ましたことが何よりも嬉しかった。
いつ起きるかわからないが、いつでも食事をとってもらえるように
食事当番の皆の代表として、歌仙と交代で定期的に様子を見に来ていたのだ。
盆には少し冷めてしまっているが、粥の器がのっている。
それを持ち上げて、華に笑顔で話しかけた。


「お腹がすいたろう?何か食べないと」
「・・・・・」
「・・・華ちゃん?・・ッほらこれねえ、堀川君が作った蜂蜜漬けの梅干しも―――」


ガシャン!!!!


何が起こったのか、理解するのに時間がかかった。
目の前にいる小さな幼い次期主が、そのようなことをするなんて。
考えたことも、想像したことも、そんなことすらもしたことがなかったから。
ひっくりかえって、零れて飛び散った粥の器。
息を乱して、叫び声を上げて掴める物を何でも投げた。


「いやあぁああ!!!!」
「ッ・・・ぁ・・・」


泣いていた。嗚咽を交えて叫ぶ幼子。
こんな姿を見たことがない。こんな風に泣いている所なんて。
小狐丸の件は耳にしている。恐らく、彼が今どういう状況かを知らない。
再び刀が蘇ったところを見ることなく気絶したと聞いた筈だ。

これ以上暴れれば身体に障る。


「華ちゃ・・・っ落ち着いて!!」
「ッ・・・!?」


暴れる体を押さえつけた途端、ぴたりとその体が動きを止めた。
突然の静寂に、光忠も困惑することしかできない。


「・・・、め・・・な・・さ・・」
「え・・・華・・ちゃん?」
「ごめ・・・な・・さ・・ぃ・・・ごめ・・・んな、さい・・ひくッ・・」
「大丈夫、大丈夫だよ華ちゃん!怒ってないから・・ね?」


一体、何に対しての謝罪なのだろうか。


そう思える程に、ただごめんなさいを繰り返す。
それ以外の言葉が出てこない。そんな姿を見ていられない。


けれども、今ここで離れてしまったら?


「っ・・・光忠・・・?」
「・・・かっこ、悪いな・・・はは・・・」
「お前・・・」
「情けない・・・・本当に・・・ねえ、大倶利伽羅」
「・・・・・・・」
「華ちゃんを、傷つけてしまったよ・・・こんなに、苦しんでいるのに・・・」
「・・・もういい。・・・変われ」


散乱した器や盆を回収しに部屋に入ってくる大倶利伽羅に、
光忠はただ、誰に見られないように、拳の中で爪を立てて、震えが治まるのを待った。



――――・・・・・。


それからも、日々は中々変わらなかった。


「華、御願いだから・・・っまた血を吐いちゃう・・暴れないでっ」
「うああああん!!!!」
「どう、したらいいの・・・っ・・・どうしたら・・・」


華の心は、戻ってきてくれるの?


「・・・・長曽祢・・・」
「・・・・・信じてやれ。」


今は、ただそれしか出来ない。



――――・・・・。


「どうだお嬢!驚いたか!!一人で千羽鶴を3回折ったぞ!」
「・・・・・・」
「まあ、このくらいじゃあまだまだか。今度は白一色にするか!!」
「・・・・」
「いやしかしそろそろ鶴も飽きたか。・・・お?」


部屋の中に、風にのって届く綺麗な花びらが一枚。
それを手に鶴丸は、華の髪にそっとのせた。

相変わらず反応はない。心ここにあらずだ。


「・・・・(心が死ぬというのは・・・こういうもの、なのか)」


決して無理をして笑わせようとしているのではない。
だが、何かせずにはいられない。もう一度名前を呼んでほしい。
元気に走り回る姿が見たい。ただ、有り触れた日々を送ってくれる。
それだけで、鶴丸にとっては毎日驚きの日々なのである。


「なあ、お嬢・・・俺の声は・・・届いているか?」


その表情は、とても儚いものであったのを、誰も知らない。


―――――・・・・。


「もう動けるか、狐の旦那」
「・・・世話を、掛けてしまった」
「なあに、気にしなさんな。無事でなによりだ」


もう一振も、長く眠っていた。


自身は死んだものだと思っていたのに。
目を覚まして、体の軽さや、傷がないこと。
そして、折れた筈の本体は綺麗に元に戻っていることに驚いた。


「主様は・・・っ・・・主様は御無事か!?」
「・・・」
「・・・・薬研・・何故答えない・・まさか・・・」
「無事だ。部屋で寝ている」
「三日月・・・」
「・・・・だが、お主は暫く部屋に行くな」
「・・・何を、言っている?」


空気がおかしい。様子を見に来てくれたらしい三条の皆の表情が暗い。
どこか怪我をされているのか、何故会わせてもらえない?


「華は、いま、こころがみだれているからです」
「今剣・・・どう、いう」
「君が、亡くなったと思っているんだよ」
「・・・・確かに・・・あの時庇って・・・折れて・・・」
「左様・・・蘇りを見る前に発狂して気絶したらしい」
「・・・ッ・・・私の・・せいか・・・?」
「それは違う。お主は華を護った。誰が悪いと言うのならば鬼だ」
「し、しかし・・・華様は・・・尚のこと生きていることをすぐに・・・ッ」
「嗚呼、伝えた方がいい。だが、今は聞く耳を持たぬ・・・」


それに、その姿を見て傷つくのは、お主であり


その姿を見られて傷つくのは、華だ。


それでも、会いにいくのか?


――――――・・・・。


部屋にそれでも行くと言えば、止められることはなかった。
だが、後ろを三日月はついてくるようだ。
近づくにつれて、聞こえてくる音、声。


何かがひっくりかえる音。障子が破れる音。
視線の先から枕が庭に飛び出すのが見えた。


「ごめんな華・・・っ嫌だったな・・・」
「どうか気を静めて・・・身体に障ります故・・っ!」


御手杵と、蜻蛉切の声が聞こえる。


あの温もりに溢れた部屋は、どこへいってしまった?

本当に、あそこに主様がいるのか?


足が、前に進まない。


三日月は何も言わなかった。


「・・・行くか」


その一言だけ発して。


華の元へ?


自分の部屋へ?



静かになった部屋から、二人が出てきてこちらに気付いた。
蜻蛉切が苦笑を浮かべて、落ち込んでいる御手杵を支えて部屋に戻っていく。


その後で、溜息まじりに薬研が姿を見せた。


「来てたのか、旦那方」
「華は?」
「眠ってもらった・・・」
「そうか・・・」
「起こさないでやってくれ。消耗が激しい」
「あいわかった」


足は、前に向いた。


見なければ、よかったかもしれない。


後にそれは、そんなことはなかったと思いなおすのだが。


物が散乱した部屋。


うっすらと畳に血の跡がある。

口元にも微かに色が残るそれが、華のものであると告げる。
くっきりと残る涙のあと。こんなに、死にかけたような姿なんて・・・。


身体の中を、何かにかき乱されているような気持ちの悪さを感じた。
言いようのないもの。唯一わかるのは、胸が酷く痛いことだけ。


額にのせた布が乾いている。


「・・・・・暫し、辛抱致します・・」


華様が、落ち着かれるまでの間。


早く伝えた方がいいと、誰もが思っているのは承知。
けれども、今自分を見ても、きっと華には何も届かない。


今必要なのは、時間だ。


「・・・時がくれば、呼ぶ」
「・・・・・主様を・・・お願い致します」



それから、眠っている間。
ほんの数分だけ、花を届けて見守り、部屋には入らず。


それを、幾日繰り返しただろうか?


どうか、声の聞こえるところまで、お戻り下さい。


どうか、このまま離れていかないでください。



この行動が、正解なのか、間違いなのか。
誰もわかりはしないけれども。


苦しむのならば、共に。


「主様・・・」


――――申し訳、御座いません。





―――――――・・・・。
あとがき


起きた時にすぐに生きてるよと伝えたいけれど、
完全に心が遠くにいっている華には幻に見えたり
逆にショックを受けてしまうかもしれないということで
あえて落ち着いて心が戻るまで姿を隠そうという
遠回りを選んだ男士ら。何よりも小狐丸が目を覚ました時に
拒絶されたりするのを怖がってしまったことが一番大きい要因。










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