あれから、また布団の住人になってしまった華であったが、
前とは明らかに違い、穏やかな日々を過ごしていた。


目を覚まして暴れることもなく、むしろ誰かの姿が見えない時は
寂しがって呼びに来ようと起き上がろうとする始末。

最初は立ち上がれない為ずりずりと這っていたところを
大倶利伽羅に即捕獲されて、あの大倶利伽羅が!と本丸の皆に
驚かれる程に息を切らして燭台切の元へ駆けこんだのは記憶に新しい。


「え!?ちょ・・・何事!?」
「ぜぇ・・ぜぇ・・・っ脱走・・だっ!!」
「大倶利伽羅!?ちょっと君大丈夫かい?!」
「ぶふ・・あっはっはっはっは!!!」
「鶴丸さん!笑ってないで!!」
「からちゃん・・・だいじょうぶ?」
「お、お嬢まず大丈夫か?あっはっは!!」


そういって彼も赤疲労になってしまったのだ。
鶴丸が大爆笑しながらも心配していたのも、覚えている。


その時に、光忠に以前食事をひっくり返してしまったことを
申し訳なさそうに華に謝られていたが、笑顔でよしよしと頭を撫でて


「元気になってくれればそれだけでいいよ」


そう何度も泣きやむまで背中をぽんぽんと叩いてあやしていた。


「昔々あるところに、土蜘蛛を切った・・・えーと・・・土丸・・が」
「兄者?わざとなのか・・・そうなんだな?」


ある雨の日は、新しく本丸に加わった、髭切と膝丸が傍について
絵物語を読み聞かせていた。黙々と華にせがまれててるてる坊主を
作っていた膝丸が引きつった笑顔で心配そうに見ていたが、髭切は気にしたふうではなかった。



あれから、華は内心を話すようになったと思う。
我儘も少しばかり言うこともあるが、華の我儘は世間一般のレベルのものではなく
ほんとうに些細なことで、我儘の部類に入るかも怪しいものだった。
けれども、それでも本丸の皆との距離が縮まった気がする。



そして、もう一人。


いや、一振というべきだろうか。変わったものもいた。


「あの御守には、華の霊気が無意識に込められていたんだろう」
「懸命に作って下さっておりました。なくさぬように懐に常に」
「それが、偶然とはいえ破壊を防いだということだな」
「はい。しかし一度は破壊されて蘇ったせいか・・・」
「どうした?」
「・・・この身は前と変わらない筈なのですが、境遇故か、主様に鍛刀された感覚なのです」


穏やかに、とても嬉しそうに胸に手を添えて、片手は本体を撫でながら小狐丸は笑っていた。
以前の自分は、前審神者の気配も、その弟子の気配も、ほんの僅かではあるが感じていた。


しかし、御守に込められた華の霊気を取り入れて蘇ってから、
その気配はまったく感じられず、再刃というよりも、新しく作られたような。

しかし、それでも記憶がある以上、前の自分であることは間違いないだろう。


それでも、小狐丸にとっては、夢見ていた華自身の手による顕現と同等の感覚を得られたのだ。


それから、今まで周りに呆れられる程に傍にいたのだが、
今はそれも落ち着いて、大人しくこうして華の回復を待っているのだ。


「主様は仰いました。皆に死なないでほしいと。」


離れないで欲しいと伝えれば、はっきりと意志を感じる返事を頂きました。


「ですので・・・安心して此処にいられるのです」
「小狐丸・・・」
「これで、本当に・・・正式に主様の初期刀として、地に足をつけられる。」


皆に、認められたのです。


三日月は微笑み、友が生きていることを実感し
そしてその嬉しそうな様子に和んだ。


「故に・・・」


ぐっと何かを決意した顔をして、小狐丸は立ち上がる。
それを止めたのは当然、三日月だった。


「止めてくれるな・・・三日月・・・ッ」
「今自分で言ったことをもう忘れたのか・・」
「離れるなとおっしゃいました・・・ッ離れるなとおっしゃいました!!」
「あいわかった。わかっているがいくな」
「主様が足りませぬ・・・主様が・・・」
「落ち着け。二度も言わんでよい、誰ぞこやつを縄で縛れ」
「嗚呼御労しい主様・・・ッ・・・」
「そう思うならば静かに寝かせてやれ・・・岩融はおるか、こやつをしめ落とせ」
「主様・・・っ!!ぐふ・・・」



そして、華が全快する頃に、


皆が望んだ日がやってくる・・・・・。










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