「成程な・・。」


膝丸に背負われ暗闇の中を歩く。
出口の見えない空間だというのに
膝丸はまるでどこに続くのかわかるように平然と歩いていた。
背負われながら話した状況に、膝丸はふむと考え込んだ。


「もうすぐだ」
「膝丸、どこに出口があるの?」
「おかしなことを聞くな。此処から出たいのだろう?」
「うん。でも、出口は―――」


出たい、そう口にした瞬間に、目が覚めたかのように視界がぼんやりとした。
そこは暗闇ではなく、背負われていた筈なのに膝丸の姿はない。
左手に何かを握りしめる感触がし、視線を落とす。


「・・・膝丸?」


カタリ・・・


僅かに震えた気がした。握りしめているのはどうやら膝丸の本体だ。
壁に凭れるように、華の体はどこかの部屋にいた。
見覚えのある壁だ。此処は、たしか本丸ではない。


「政府の・・・お部屋?」


現代技術の詰め込まれた場所。白い壁に無数の書簡。
乱雑に置かれたそれに、どうやら書庫にいるようだと気づいた。
政府の書庫は初めて入る。その書庫のどうやら奥の方にいるようだ。


「!・・・こまるの」


体を包み込んでくれていた存在。
本丸を冬の景観に変えようと少し我儘を言ったことがある。
本丸の皆は我儘ではないと言っていて、快く冬景色にしてくれた。
その際、庭の散歩に出ることになって、小狐丸にマフラーを贈った筈だ。
それを、肩掛けのようにかけられていて。


ということは、この場に―――


「此処では人型になれるのだな」
「うん。政府の空間では特別な結界があるからって」
「華の霊力を借りた。弱っている時にすまんな・・・」
「大丈夫・・・」
「まだ顔色が悪い。すぐには回復しないだろう。その間・・・」


すらりと刀をぬいて、切先を何もない空間に向ける。
しかし、華には膝丸が何を睨み付けているのかがわかった。
向けられている完全なる敵意、殺意。
ぐにゃりと歪んだ空間に、赤黒い鬼の姿が浮かび上がった。


「華・・・隠れていろ」
「膝丸!」
「?・・・これは」


咄嗟に膝丸のベルトに括りつけたもの。


「お守りだよ・・・華だって、皆を護りたい」
「・・・ああ、有難く装備しよう」


眼光鋭く、迫る鬼に向かって膝丸は立ち向かっていった。
鬼は素手で刀を弾く。本当に、あの時の鬼なのだろうか。
封印する時確かに、会心していたはずだ。声を華は聞いていたのだから。
暫く夢の中にさえ現れて、何度も謝罪をされたことは、皆には言っていない。
どこか様子がおかしい気がする。まるでそう・・・


意志とは無関係に、暴走しているようで。


「膝丸!!後ろっ」
「な・・っ増援か・・」


鬼が奇声を上げたと思えば、現れたのは異形の鬼の群れ。
3体の鬼は太刀を持っている。此方は膝丸一人だ。
まずい状況になってしまった。小狐丸達が此方にいるのならば
何とかなったかもしれないが、居場所を知ることもできない。
傷を少しずつ増やしている膝丸。しかし諦めた風ではなかった。


「神仏の加護が無くとも、勝てると証明しよう!」


ぎりり、と刀を力強く握りしめる。
増援の鬼の首を飛ばし、もう一体の足をそのまま切り崩す。
疲弊している体が、がくりと膝をついた。
それを逃すまいと鬼が刀を振り上げる。
華は咄嗟に走っていた。蹲る膝丸にしがみつき結界を試みる。


「ッ華・・・やめろ!霊力の弱っている体で・・ッ!!」
「・・・や、だ・・っ・・華が・・護るっ!!」


ひび割れる結界。やはりまだ完全なものは貼れない。
じわりと嫌な汗が噴き出す。気持ちが悪い、視界がぶれる。


結界が、崩れる!


「その腕・・・もらった」


結界を切り崩そうとしている鬼の腕が宙を舞った。
唸り声をあげて後退する鬼。その首も綺麗に飛び去った。


消える鬼の後ろに現れたのは、綺麗な白。


「弟を、護ってくれて有難う・・・小さな惣領」
「・・・っは・・ぁ・・」
「大丈夫だよ・・鬼を斬るのは慣れているからね」
「あ・・・兄者・・・」


やあ、捜したよ・・・弟の・・えーと・・・何だっけ


兄者あああぁ!!?


膝丸のある意味別の悲痛な叫びが、書庫を児玉した。












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