空木が連絡を受けて華の元へたどりついた時、
華は苦しげに布団に横にかなっていた。
青く薄い結界が華を護るように張られているが
それは刀剣男士が用意したものではない。
自己防衛で無意識に展開してしまっているようで
部屋にひっくり返った水桶と、手拭を握りしめて途方に暮れている長谷部と
手出しが出来ないことに悔しさを滲ませる薬研、
そして触れることが出来ないことへの苛立ちを見せる小狐丸が
状況をその身を持って告げている現状だった。


「空木殿・・・」
「・・・・以前華様が封じた鬼の結界が、破られた」


空木の言葉に、一同が驚きを露わにする。
政府が厳重に封印を重ねたというのに、何故。


「華様のお力は相当なものではある。しかし・・・」


まだ真の審神者になるための儀式を終えていない。
さらに、幼い子供である故に、今本丸にいる男士らへ
霊力を分け与え、本丸を維持しているのだ。


「い、今まで何も起きなかったのに」


清光が困惑しつつ状況を飲み込もうとしている。
空木は悲しげに俯き、口を開いた。


「今までこの本丸が維持できていたのは、前審神者様の霊力が残っていたからだ」


直ぐに消失することはなく、少しずつ力を失っていった。
本来ならばそれと同時に華の霊力が本丸を維持する為に
完全にシンクロするはずだったのだが、封印が解かれたことによる影響か
前審神者の霊力が急に消え去ったことから、残りのツケが一気に華を襲ったのだ。
少しずつ時間をかけてシンクロするはずが、急激に本丸の維持と今いる男士全員と
霊力がつながったことで、倒れたことになる。


「恐らく、今完全に力を発揮できる男士は限られる」
「一体、誰になると?」
「・・・華様が直接顕現した、あるいは前審神者が亡くなられて以降に本丸に入った男士」


空木の言葉に、視線はその男士に向けられる。


「長曽根と・・・」
「小狐丸・・・お主もだ」


他の男士は華様が意識を戻すまで、本丸から出ることは出来ない。
そして出来るならば、霊力を多く消費する男士は落ち着くまでの間本来の姿に戻って待機してほしい。


暫く続いた沈黙を破ったのは、次郎太刀だった。


「華ー、あたしってば図体でかいからね、暫く寝るけど、ちゃあんと起こしてよ?」
「次郎・・・」
「兄貴!心配ないって!」
「いえ・・・先を越されてしまったと、思いまして」
「おや珍しい!んじゃあ、部屋に戻って寝てくるからっ」


後に続いて、皆各自の部屋に戻っていく。
その中で、部屋に戻らない者もちらほらいた。


「・・・駄目・・・やっぱ心配で眠れない・・・」
「・・・・清光、何言ってるの・・・って、言いたいけど・・・ぼくも」
「何人かは、そのまま待機しておいたほうがいいとおれっちは思うが・・・」
「同感だな。鬼の封印が解かれているということは、此処へ来るのは明白」
「空木殿・・・どう思われる」
「たしかに、戦力もある程度はほしい・・・それから、心苦しいがやってもらいたいこともある」


空木が眠りにつかなかった刀剣男士に作戦を話始めた。


――――・・・。


そんな中、華の意識は暗闇の中にあった。
禍々しいモノが追いかけてくる化外がして、必死に走る。
だが、どこにも光はみえなくて、果てもわからない。
いつまでこの鬼ごっこは続くのだろうか。
夢か、幻かさえもわからなくなってくる。


背後からは呻きと怒りの気が近づいてくる。


「はっ・・はぁッ!!」


この気に飲まれてしまえば、二度とこの空間から出られないような気がする。


誰か・・・誰かっ!!



「瘴気!断つべし!」


どこかから声が響く。
背後に迫っていた気が消えていき、代わりに刀の気配を感じる。
振りかえって華は目を丸くした。


「鬼の気を辿れば兄者がいると思ったのだが、何故このような場所に童女がいる?」


視線が交わり、ふわりと華の頭に名前が浮かび上がった。


「膝丸・・・?」
「左様。俺は源氏の重宝、膝丸だ。・・・名を言い当てたということは童女は、噂に聞く審神者か?」
「華って言うの」
「そうか。ところで華よ、一つ聞きたいのだが」


――――兄者を知らぬか?



華の背後に現れたのは、鬼ではなく兄を捜す刀でした。









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