「転送門の場所、ですか?」
「短刀から逃げてたら迷っちゃって・・・」
「御安心を。この狐めが必ず主様を無事に元の場所へ」


ひょいと軽々華を抱えて、小狐丸は洞窟を出た。
雨は止んで、空気が澄んでいる。
しっかりしがみついて、身を任せた。
勝手知ったる場所と言わんばかりに、
小狐丸は迷うこともなく転送門の場所までたどり着いた。


「こまる、おろして」
「御意に」


門の前に立ち、目を閉じる。
一度大きくゆっくり息を吸い込んで
目を見開き門へ手を翳した。
門へ送り込まれる膨大な霊気に小狐丸は息を飲んだ。


「帰ろう。皆が心配なの」
「では、御傍に。向こうがどうなっているかわかりませぬ故」


―――――・・・・。


「何故、何故!!!!!何故いうことを聞かぬ!!!」


女の目の前に展開されている光景。
操れるはずだった堀川と秋田は、
破壊までいかずとも重傷。
それを止めるために奮戦した清光、安定、和泉守は中傷。
粟田口兄弟らは軽傷を負い、一期は重傷である。
錯乱し禍々しい気を放つ女に警戒しつつ
転送門が光りを放つのに気付き、皆が視線を向けた。
大きな影が見え、敵が入り込んだのかと一斉に刀を向ける。


「無粋な歓迎ですね」
「みんな!こまるは敵じゃないよ!刀をおろして!」
「華様!!?」
「御無事ですか!!!!」


光が消えて、目視できたその姿に安堵し
各自武器を下げた。駆け寄る者、その場で安堵する者。


そして・・・。



「・・・っ華」
「みかづき!」
「無事か?怪我はないか?」
「平気だよ!」
「華?・・その首の―――」
「三日月」
「小狐丸・・・そなた・・」
「彼の地に逃れ、主様に救われました」
「華の首に巻かれたこれは」
「話は後程、今はそれを何とかせねば」


ゆらりゆれて華に近づいてくる女に
三日月と小狐丸は刀を抜いて向けた。


「あき兄たちの手入れしてくるね・・・・」
「嗚呼、それがいい。頼んだ」
「御安心を主様・・・」
「コギ・・・ツ・・ネ」
「ええ、貴方に盗まれた小狐丸ですよ・・・」


主様の傷つく尊顔は見たくありません。
故に、手入れに行かれたのは好都合。
このどす黒い積年の恨み。


晴らさせてもらいますよ―――。


――――――・・・。


手入れを終えて応戦していた皆の所へ戻れば、
地に伏し、ぼろぼろになった元女の鬼。
もはや人の型を残しておらず、完全に心まで喰われてしまったようだ。
華の前には近づけさせまいと獅子王が抜刀し立つ。


「しし兄、大丈夫」
「華・・・けど」
「たぶん・・・皆じゃ、この人は」


鬼の背に突き立てられた刀は、三日月の物だろう。
小狐丸の眼光は出逢った時に襲い掛かってきた時と同じく
獣の目をしていて、興奮状態にあるようだった。
ゆっくりと近づき、華は小狐丸の手を掴む。


「こまる」
「ッ・・・!?」
「いいこ、いいこ」
「・・・主・・様・・」


逆立っていた尾がゆるりとたれるのを確認して
華はにこりと笑んでそっと小狐丸の前に出た。


目の前にいるのは、困惑した様子の三日月一人。


皆が見守る中、華は両手を前に突き出して
息を深く吸い込んだ。キラキラとした光が
華の手に集まってくる。


「華・・・それはっ」
「・・・」


現れたのは、紅色の鞘に納められた小太刀。
それをしっかりと握りしめて、華は鬼の前に正座した。
三日月の刀をぬけば、鬼は動き出すだろう。
まだ息がある。眼光は明らかに華を狙い殺気に満ちていた。


目を閉じれば、漂う微かな鬼の思念が流れ込んだ。



嗚呼・・・ドウシテ・・・


一生懸命、修行シタノニ・・・


霊力ガ少ナクトモ・・審神者ニナレルトイッテクレタノニ


何ガ・・私ヲ狂ワセテシマッタノ?


母上様。私ハタダ・・・純粋ニ



貴女ニ憧レテ、一人ノ審神者ニナリタカッタ



政府の男に無理やりつれていかれ、
霊力をぬかれる光景が流れ込む。
涙する女と、笑む男達。
前審神者がこれを知っていれば
止めることが出来たかもしれないのに。


今、その霊力が、体の中にあるということ。


「お嬢!!大丈夫か!?」


ぽたぽたと大粒の涙を溢れさせながら、
華は心配の声を上げる鶴丸に頷いてこたえた。


「みかづき・・・」
「嗚呼・・何だ」
「・・・ははさまに、ゆっくり眠ってもらうね」
「華が手を下すことはない。俺が―――」
「この小太刀は、命をとるために出したんじゃないよ」
「では・・・」


おやすみなさい、ははさま。



小太刀を掲げて、華はうたった。


とても優しい声で、うたい続けた。

鬼の体は少しずつ、女の姿に戻り

薄くこの世から消えて、刀へその光を移していく。



有難うと、ごめんなさいと


華の心を込めた封印のうた


それは、今聞いている刀剣らには

浄化のうたにも、癒しのうたにも思えた。



そして、この場所から


女も、鬼も、姿を消した。










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