静かに、空が曇り雨が降り始めた。


ズルズル・・ズルズル・・・・


狐色の着物は泥に塗れて、
白く艶やかだった髪も血にぬれて
軋んで痛んでいる。


もう、足で歩くことも出来ない。
かといって、むざむざと異形の輩に
最期を決められるのも癪に障る。


当てもなく、這いずって、生きてきた。
あの女に盗まれて、顕現される寸前にこの場へ
逃げ込んでどれほどの月日が流れたのだろうか。


人の身を得たはいいが、無理矢理この場へ
入り込んだことによる損傷が激しく、重傷状態。


とうとう、這いずる力も、なくなった。
嗚呼、雨か。雨の匂いは好きだ。
このべたりとついた血を洗い流し清めて
せめて死ぬ姿は美しくありたいものだ等と。
阿呆なことを考えていた時だった。


ぶわり、と。今までに感じたことのない霊気を感じた。
まさか、ありえないだろう。このような場所で霊気等。


霞む視界に入ったのは、赤。
まさか、敵か?しかし敵がこのような霊気を持つはずがない。
この身を清めるように、勝手に流れ込んでくる心地の良い霊気。
己の内の野性を呼び覚ますには、十分だった。
無意識に自己防衛本能が働いたのか、体が勝手に目の前の
赤に飛びかかり、その細い首筋から肩にかけてのラインを


食い千切らんと、噛みついていた。


フーフーと威嚇の息が漏れる。
そして、牙、舌で舐めとり得られる極上の霊気。
そして・・・これは、神気か?
ゆるりと視線をむけて、漸く自分のしでかしたことを理解した。


己が噛みついていたのは、まだ幼い少女だ。
赤は少女の着物の色で、同じように泥で汚れている。
早く口を離さなければ、野生に従ったとはいえ
何ということをしてしまったのか。


しかし、少女は悲鳴もあげることなく、
地面に押し倒されたというのに、


その小さな手で、髪を梳いてくれた。
愛しむように、小さな震える声で

「よしよし・・・こわくないよ」と。


嗚呼、何と甘美なその声なのだろうか。
本当はとても怖い筈だ。泣きたいはずだ。
痛みに叫びたいはずだ。それなのに。


ゆっくりと、口を離し、距離を取る。
少女の霊気と神気により、この身は完全に癒えていた。


「・・・よか、った・・ねぇ。元気に、なっ・・・て」
「っ!?」


どうしたらいい?己で傷つけておきながら困惑する。
このままではいけないのは分かっている。
だが、人の身の治癒など顕現してからしたことがない。
なれば、やはり本能に従う他ないだろう。
傷口に舌を這わせて、血を舐めとる。
本来ならばそのようなことで治るわけがない。
だが、己は付喪神。下位だろうが何だろうが神なのだ。
その存在が、このような小さな人間の少女一人救えずに


――――何が神か!!!


与えて貰った霊気を戻す様に、丁寧に傷口を舐める。
痕は残るだろう。本当に申し訳ない。
だが、出血はとまり、呼吸も落ち着いてきている。
雨に体温を奪われるのはまずいだろう。



少女の体を抱き上げて、雨の凌げる場所を捜した。










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