首に縄をかけてその先をしっかりと縛り付ける。
こんのすけは暴れても逃げられないことに
諦めたのか大人しく丸くなっていた。
途中何事かと騒ぎを聞きつけた和泉守と太郎太刀、
後から遅れて来た歌仙と合流し、三日月の部屋には
こんのすけと五人の男士が集まっていた。


「さて、時間はたんとある。吐いてもらおうか」
「このような事をして、よろしいとお思いですか!」
「無体はしたくない。逃げず話すならば縄を解く」
「でも、君は逃げるだろう?」


鶴丸の言葉に、こんのすけは耳を垂らす。
勿論五人はこんのすけをどうこうしたいために
このような手段を取っているのではない。
ただ、知らなければならない気がした。


何故今まで、疑問に思わなかったのだろうかと。
そして、一度でも疑問に思ったことはなかったのかと。


「お話しても、よろしいのでは?」
「!な、何ということを!なりませぬ!」


部屋に現れたのは、黒い方のこんのすけ。
彼は一冊の書物を咥えてとてとてと
五人の前に移動し、それを置いた。


「これは・・・」
「前審神者の日誌です。ワタクシが代筆していることもありました」
「おやめなさい!話しては・・・むがっ!?」


すまんな、と苦笑して鶴丸はこんのすけの口に布を巻く。
この黒い方は真実を知り、それを話そうと協力的だ。


「それは、本来審神者に隠すように言いつかったものです」
「それを、何故」
「これから起こりうるやもしれぬことに、必要かと」
「何が起こるというのです」
「・・・・それは、三日月殿が読むべきかと」


置かれた日誌を手にとり、三日月は目を細める。
縛られたこんのすけはうつむいてしまった。
一体、何が書かれているというのか。


ぺらりと、日誌を紐解いた。



――――・・・・。


日誌は、前審神者が審神者になった日から綴られている。
懐かしい筆跡に、思わず自然と小さな笑みが浮かぶ。
初期刀に歌仙が顕現されたこと、出陣の際に手傷を負うと
予めわかっていたが、手入れの際に何度も謝り歌仙を困らせたこと。


「・・・あの時の主が巻いてくれた包帯は、今でも持っているよ」


苦笑して、歌仙は本体の鞘に結んである包帯を見せる。
手入れ部屋に入るころには審神者の霊気で出血は止まっていたのだが
それでも気が済まないと巻いてくれたそれを、お守りにして
何度も、何度も出陣したのだと。遠い眼をして歌仙は語る。


歴史改変を阻止すべく、日々の出陣について。
誰が顕現され、誰が手入れをし、誰が内番をしたと。
重症を負わせて、もしも折れてしまっていたらと
暫く心を痛め伏せってしまったことも書いてある。


そして、三日月を顕現したこと。



未熟な審神者である私の元へ、三日月が顕現された。
果たして彼の方に認めてもらえるほどに、
私は強く、あれるだろうか?


――の月


太刀の錬度が上がり、広範囲に出陣できるようになった。
三日月はまだ顕現して間もないので暫く錬度を上げつつ
人の型に慣れていってもらいたい。

中々に彼の方は、思考が読みにくい。


―――の月


歌仙が近侍を離れ、二軍の隊長として短刀達を
暫く訓練することになった。申し出はとても嬉しい。
けれど、やはりどこか寂しさも感じる。



―――の月


皆に隠していた病弱なところを、
まさかの三日月に知られてしまった。
強くあるべきである私が、弱いということを
知られ、幻滅されたのではないだろうか。
もう、私に彼の方を振るう資格はない。


――――の月


三日月から近侍にしてほしいと申し出があった。
思わぬ言葉に私は驚いた。返事をするまえに
彼は自身の名前の書かれた札を手に
当番表の近侍のところにそれをかけて、笑った。

本当に、思考が読めない方だ。


彼の方は私が病弱であることを他の男士らに
伝えてはいなかったようだ。
体は問題ないかと問われた時にそれを知った。
ただのじじいの気まぐれだと言っていたが
必ず何か考えがあってのことだろう。


進む日々。そして・・・・。


三日月の手が、止まった。


脳裏にあのときの光景がよみがえる。



―――の月。


屋敷の結界が破られ、遡行軍が侵入してきた。
主力は進軍中、二軍と三軍は遠征中。
屋敷に残る男士らは私を護ると戦闘を開始した。
数が多く、錬度がまだ甘い男士らもいるために
軽傷ではあるが確実に傷は増えていく。
そして、三日月の背後に敵の槍が迫っていた。
気づいていない、さらに足を怪我していたはずだ。
気配に気づいて振り返ると、そこには。


「・・・み・・か・・っ」
「・・・ッ!!?」


鮮血を吹きだし地に叩きつけられる審神者の姿。
審神者の体を貫いて三日月にもその鋭利な先が
僅かに喰らっていたが、この時は何も考えられずに
目の前の槍を葬っていた。


「審神者!死んではならぬ!!」
「・・・ふふ・・っ死には、しませんよ・・・」
「愚か者!!何故庇った!そなたはっ―――」


目を閉じる審神者を抱き起し、貫かれた傷口をおさえる。
今はどこで戦闘をしているのかはわからないが、
近くにいる者に薬研を呼ぶように叫んでいた。


そのとき、三日月の額から流れた血が、
審神者のものと混ざり合ったことは、


誰も知らないこと。



―――・・・・


現世で治療を受けることになった。
腹を貫いた傷は現世の医療の力と、
屋敷での応急処置が早かったこと。


そして・・・・。


「霊力が上がっている、と?」
「はい。審神者様の霊力に混ざる別の強い気を感じます」
「・・・身に覚えが、ありませんが?」
「失礼を承知で、全ての検査をさせて頂きました」


掟の通り、男士と交わった形跡は御座いません。
しかし、これだけの力を持った者は限られます。


「ですが・・・」
「・・・何か、あるのですか?」


こんのすけが、政府の男の代わりに口を開く。


――――審神者殿の腹に、子が宿っております。



「三日月殿?」


太郎太刀が声をかけるが、三日月は反応しない。
否、出来なかったのだ。字を指でなぞり、
唇を噛みしめる。そこから滴る血に鶴丸が驚き
近くにあった布で拭ってやった。


嗚呼・・・嗚呼・・・


何と、愚かだったのだろうか。
審神者が愚かなのではない。


あの時確かに愚か者と叱咤してしまったが。



愚かなのは、俺の方だ―――!!!


己の内にて白状しよう。
審神者と刀剣男士の色恋は当時御法度とされていた。
顕現し、暫くは霊力の心地よさと己の人の身を堪能していた。

審神者を気になりだしたのは、体を壊し弱った頃からだ。
懸命に隠そうと、凛とし長としての役割を果たそうとする
その姿に、日々眺め見る喜怒哀楽に、惹かれた。


かくとだに えやはいぶきの さしも草
 さしも知らじな 燃ゆる思ひを


そして、一度顔を見せに屋敷に戻った審神者が、
歌仙に暫く用があると告げて、また屋敷を出て行った。


繋がる、記憶と、真実と。


「私の、孫です」


現世から戻った審神者は、年老いて。
連れて来るは、孫ではなく・・・


華と呼ばれた、月の名を持つ神の


――――娘・・。


「三日月、君・・・?」
「ッ・・鶴よ・・・俺は、本当に・・ッ愚か者だ!!」


最後のページに書かれた和歌に、
顕現し初めて、三日月は涙を零したのだった。


玉の緒よ 

   絶えなば絶えね 


ながらへば


 しのぶることの 


        弱りもぞする





―――――

かくとだに・・・藤原実方朝臣より
玉の緒よ・・・式子内親王より








×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -