「記憶が・・・」
「もどったぁ!?」
「い・・いつのまに・・・」


三者三様、そして他の者らにも明かした、記憶の話。
誰もが唖然として、そして安堵に変わるのは
現代でいうりあくしょんの違いだけだった。
粟田口兄弟は華の頭をかわるがわる撫でまくり
薬研と一期には抱擁をされてもみくちゃにされる。
沖田組からは、清光と安定に交互に抱擁されて
まるで人形の取り合いのような状況だった。


「やめなよ清光ったら!」
「安定こそ手、離したらいいじゃん!!」
「うるさいな華が困ってる」
「お前の抱擁に困ってるの」
「きよ、やす、めっ!」


華の一言でやっと大人しくなる始末だ。


三条組には何故か御煎餅やら和菓子やら
記憶が戻ったから好きだったお菓子をどんどん
食べなさい状態でこれもある意味困りもので。


次郎と岩融に高い高いという名前の放り投げをくらい
それを太郎が一刀両断し安全を確保する。


まあ、つまるところ皆嬉しすぎて歯止めが効かない状態だった。



三日月と鳴狐は前から記憶が戻っていたということは
華との約束通り、言わなかった。
ただ、記憶が戻ったということだけを告げただけ。
華の小さいながらも懸命に励んだ努力を尊重しての結果だった。


――――・・・・・。


「・・・・・」


審神者の部屋で、華は一人書物を読んでいた。
そこには審神者が華でも読めるように振り仮名がふってある。
外見八つの華だが、幼き頃より密かに知識を審神者から
得ていたこともあり、もう仮名はなくても大体は読めるのだが
審神者の優しさを思い出せるこの本は、宝物になっているのだ。


暗がりでこっそり読んでいたのだが、急にふわっと灯りがともる。
視線をむければ、苦笑して長谷部が華を見ていた。


「目を悪くされますよ?」
「はせべ、ありがとう」
「いえ。礼を言うほどのことをしていません気になされるな」


自分にとってはまだそれほど経っていないというのに
現代で監禁されている間に、時が進んでしまった華は
大人びて見えて、あの審神者がいた日々の中にある
無邪気に笑う子供の孫様が、どこか遠くにいってしまったような
寂しさを長谷部は感じていた。しかし、華は華である。

記憶が戻ってからも、華は一期をいち兄と呼び
長谷部にも孫様ではなくこれからも華と呼んでほしいと言ってきた。
せめて様だけはつけさせてくれと懇願すれば頭をよしよしと
撫でられたのは記憶に新しい。これも良い思い出になるだろう。


「何をお読みになられていたのですか」
「審神者のおべんきょうの本だよ」
「左様ですか。ですが、もうそろそろお休みになって下さい」
「わかった。」


素直に言うことを聞いてにこりと笑う顔。
本当に、あの頃となんら変わらない。
それだけで、胸が温かくなるのを感じた。
人の型を得て、人の気持ちを知るということも
悪くはないと長谷部は思えた。


「おやすみなさい、ばっちゃ」
「!・・・華様」
「はせべ行こう?」
「は、はい・・・・」


とてとてと廊下を歩く華に続く前に、
長谷部は審神者の部屋をじっと見つめて。


おやすみなさいませ、審神者様。


そう、小さく呟いて、障子を静かに閉めた。










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