あの後、泣き声を聞きつけた皆、特に機動一番の長谷部が
まず部屋に飛び込んできて、何事かと詰め寄ってきた。
三日月は「何でもない」と一言告げたきり、華の背を
ぽんぽんと撫でているだけであった。


華が落ち着きを取り戻し、一期が粟田口兄弟の部屋へ
連れて行くことになった。華は嬉しそうに皆に囲まれ部屋を出る。
しんと静まり返った部屋に残るのは、三日月にとっては意外な者だった。


「・・・記憶のこと」
「!・・・そなた、まさか」
「・・・・華と、約束していた」
「わ、私めは反対したのですがっ」


鳴狐とそのお供が三日月を見つめ言葉を紡ぐ。
いつから知っていたのか、色々と疑問は浮かぶが
華と約束をしたという一言で、苦笑を浮かべる他なくなった。


嗚呼、まことそういうところが審神者に似ている。


「皆に、話すにはまだ早い」
「・・・わかった」
「俺が時期をみて知らせる。故に案ずるな」
「御願致しまする!三日月殿!」
「任せよ」


――――・・・・。


華様の容体がよくなり、ほっとしたのも束の間。
椿は政府機関の書庫で歴史書を検索していた。
歴史改変に関わるものではない。


審神者の一族に関する書物だ。


暴政派と心酔派の内部抗争が少しずつ激化している。
いつまた暴政派が華に危害を加えるやもしれないと思うと
いてもたってもいられなくなったのだ。
中立の立場ではありながらも、日々世話をしていれば
愛着が沸いてくるものなのか、歳の離れた妹というか
娘というのか、とにかく守ってやりたくなる。
そのためには、知っておくべきだろうと思い立ったのだ。


データベースで調べれば直ぐだと思ったのだが、
厳重に幾重にもロックがされていてパスを解くことができなかった。
ならば、古典的なやり方になるが、ここは文献を調べるしかないだろう。
捜せども中々それらしいものが見当たらない。
やはり心酔派のどこかに移動しているのだろうか。
そろそろ持ち場に戻らないとまずい。
渋々諦めてその場を去ろうとしたときだった。
書庫の外、廊下に数人の気配を感じる。
書庫にいること自体は怪しまれないだろうが、
念のために気配を極力消して聞き耳を立てた。


「まだ連れてこられないの?」
「申し訳御座いませぬ。難航しておりまして」
「言い訳は聞きたくないのです。無駄に言葉紡ぐことだけは立派な口を持ちおって」
「な、何を・・・っお、おやめくだ・・・―――ッ!!!」


ぐしゃり、びちゃッ


水滴の落ちる音がする。
男の声が途中で途切れた。
何だろう、嫌な予感と想像しか出来ない。


今見つかったら、殺される!?


震える体を叱咤して、気配を殺すことだけに集中する。
女の声が廊下に響いていて、それは―――


「嗚呼、はようあの娘の心ノ臓を・・・」
「長様、参りましょう。着替えを用意させます」
「フフフ・・・母上亡き今娘を殺すなぞ・・・フフフフ」


遠のく気配に、椿はその場に座り込んでしまった。
自分の間違いであってほしい。たしか前審神者が亡くなる前に
刀剣男士らの手によって、葬られたと報告書にあったはずなのに。
今、長と呼ばれていた女は、まさか。











×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -