総会が終わって翌日から、政府の文が届くようになった。
内容は刀剣男士の錬度のことやら、鍛冶、刀装の個数
雑務から任務まで様々な内容ではあった。

だが、どの文にも必ず最後に同じ言葉が書いてあることに
文の開示をしている三日月、長谷部、一期、石切丸は眉を顰めていた。
特に三日月は表情を変えていないが、何といえばいいのか。
彼の周りに怒りの気が漂っているように見える。


文の最後にかかれているのは、簡潔にいえばこうだ。


「華を政府に連れてこい」
「言葉は違いますが、全く意味が同じことを」
「此方の文もだよ」
「・・・・」
「三日月殿、如何されました?」
「否、何でもない」


あろうことか、政府からの文を綺麗に飛行機にして
縁側に向けて飛ばす様をみて、嗚呼完全に御立腹だなと
一期は小さく息を吐いて行為を流すことにした。
本来ならば窘めるべきなのだが、さすがに膨大な量の文の
どれを見ても必ず最後に同じことを書かれていては
誰であろうと苛立ったりするだろう。

無論、それは一期も例外ではなかった。
可愛い可愛い妹を拉致監禁してくれた政府に
連れて行く等、はっきりいって、ありえない。


「総会で、何かあったのでしょうか」
「華が粗相をする訳がないだろう」
「平野と前田がいたのだろう?ありえないな」
「むしろ、逆に向こうが何かしたのでは?」
「多くの不特定多数の者がいる中で堂々と何かするとも」
「何かあれば前田と平野が報告するはず」
「して、時に華は何処におる」
「今は、椿殿と湯浴みの時間ですな」


――――・・・・。


流石に華は女子である故に、
湯浴みの時間は椿が来ることになっている。
着物の着付け等は彼らでも出来るのだが
之ばかりは仕方のないことだ。
気持ちよさそうに湯浴みをしている華の髪も
結構伸びてきた。肩までだった髪もそれをこえはじめている。
そろそろ一度切って整えた方がいいだろう。


「椿さん」
「はい、なん、でしょう、か?」


今、椿が見ているのは、齢八つの女子なのだろうか。
この身で感じる威圧感。これは、前審神者のような・・。


「頭・・・痛い」
「え?・・・っ華様!!」


突然倒れこんできた華の体を支えて
椿はすぐに湯船から出た。
ゆっくりと華の体を横にして上に体を拭くために
用意していた布をかけて様子をうかがった。
華の白い肌が薄ら赤みを帯びている。
それは湯につかっていたからだけではなさそうで。
先程まで普段通りにされていた。何がきっかけだ?
何が原因で突然倒れられたのか。


倒れる前に、何の会話をしていた?


―――あの暗い場所にいたら、皆が消えて行ったの


このお屋敷の皆は、とってもやさしくて、あったかくて


胸がきゅってなってね、いつもなみだがでそうになるの。


なんでかなっておもってたらね、鏡の中で華がいうんだよ?





お  


    も   


い   


  だ  



 し  


      て



「総会の、まえの日に、あたまがキンキンしてね」
「!華様、意識が・・・」
「ばっちゃが、わらって、頭をなでてくれたんだよ」



そしたら、華はじぶんが、華だって。


ここにいるみんなのことが、大好きな華なんだって。


いっぱい、いろんなことが、あたまのなかで浮かんできて。


それから・・・。


そして、ぷつりと、視界が暗く。



――――・・・・。



華が湯殿で倒れたと聞き、屋敷は騒然となった。
政府から医師を呼ぶと言われ渋い顔をした者もいたが、
前審神者の頃から診ている医師だと告げられ、
幾人が、特に薬研がよく知っていた者であったので
何とか悶着もなく事は進んだ。
医師と椿と薬研が華の部屋で診察をしている間、
他の者らは落ち着かない様子で経過を待っていた。
落ち着くように促すのは、普段から落ち着いている者らで。


それほど長い時間ではなかったのに、長く感じられて。
全員が中に入ることは出来るわけもないので
代表を決めて様子を見に行こうとしていたのだが。


「三日月殿、中へ」


椿の後ろに薬研が立っていて、一つ頷いている。
三日月は普段と変わらぬ動作で、華の部屋に入った。


布団に横になる華の呼吸は落ち着いていた。
普段の眠っている姿と変わらないことに安堵の息を
こそりと吐いて、三日月は用意されていた座布団に座った。
椿は医師を見送る為に部屋を出ていき、薬研も立ち上がり
医療道具の入った包みを抱えて障子を一人分開けた。


「何かあったら呼んでくれな、旦那」
「あいわかった」


静かに閉められる障子。あたりに気配はない。
顔にかかった髪を避けてやると、薄らと目が開いた。


「気分はどうだ?」
「・・・・」
「無理に起きずともよい」


どれ水でもと、立ち上がろうとした三日月の着物を
小さな白い手が掴んでいて、叶わなかった。
そして、華の目はぱちりと開いていて、
紡がれた言の葉に三日月の目が見開かれることになる。


「みかづき、華は思い出してたんだよ」
「・・・華、記憶が」
「おもいだしたのは、最近なの。でもね、みんなをまもるために」


うそをついてたんだよ。


ばっちゃに言われたの。


みんなを護れるのは、華なんだよって。


ばっちゃと時々、こっそりおべんきょうしてたの。


審神者のおべんきょう。


いっぱいむずかしい本も読んで


ばっちゃのやってることを、おぼえたよ。


でもね、怖い政府の人が、


華がかしこいってわかったら、たいへんなことになるからって。


だからね、華はうそを、ついてきたんだよ。


「・・・・」
「でもね、総会の前の日に、聞いたの」


政府の人が椿さんとお話してるときに。


「あのような幼子に仕えている刀剣も大方使い物にならんでしょうなあ」
「審神者様の刀剣男士ですよ、口を慎まれては?」
「大方戦場にあまり出ないのも、力量が稚児レベルなんでしょうなあ!!」
「違いない!はっは!所詮宝の持ち腐れというもの」
「五剣の三日月も幼子程の弱さであったりしてなあ!!」
「いやあ気の毒に」
「お頭も相当な錬度なんでしょうなあ!ふはは!!」


政府の人達が笑ってるのを聞いてね。
華ね、ばっちゃとのお約束、破っちゃったの。
本当はね、もしもばっちゃの代わりに、華が総会に
出ることがあったら、三日月と一緒にいってねって言われてたの。


その言葉に、三日月は総会前夜のことを思い出していた。
確かに、自分も覚えている。審神者に言われていたのだ。
自分の身に何か起きて、総会に華が行くことになったら
その時は宜しく頼むと、約束をしていたのだ。
それが、華は平野と前田と行くと言ったのだ。
その時点で、何かしら思うことがあったのだが。
華の意志を尊重し、そして何かあるのではと
三日月も自身の内の勘が働き、許可しての今がある。


目の前で涙を目一杯ためて零さんとする華は、
小さな手を震わせていた。


「華をわるくいうのはいいの、で、も」


みんなを笑わないでほしかった。


みんなはつよいし、優しいし、かしこい。


なのに、華が嘘をついてたから、悪く言われる。


だから、我慢できなくなったの。


平野兄ぃと前田兄ぃにおねがいしたとき
すごくびっくりされたけど、
一生懸命お願いしたら、行ってくれるって言ってくれたの。


華、一生懸命考えて、二人にお願いしたの。

総会にはえらいひとたちがいっぱいくるから。


みんなはつよくて、ちゃんと華を守ってくれる


かしこくて、つよくて、それで・・・・



そこからは、言葉にならなかった。
できなかった。嗚咽が止まらない。


「もうよい。華の想いは確と受け止めた」


涙を遠慮なく溢れさせて、只皆を護る為、
只皆を案じて、想って、己を顧みずに
今後政府から何かとされるかもしれないのに
審神者との約束を違えてまで、その才諸々を曝け出した


小さき、審神者を。


三日月はただ、強く抱きしめてやり

声を上げて泣かせてやることしか、




出来なかった。












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