他の兄弟達のように、妹のように可愛がってやっておくれ。


審神者の遺言が頭を掠める。
今、庭園を一人寂しそうに歩いている華様に、
一期はどう声をかけていいのやらと思案していたのだ。

記憶は相変わらずまだ戻られてはいない。
故に、どのように接すればいいのかと考えすぎてしまう。


もしも、傷つけてしまったら。
もしも、悲しませてしまったら。


ふと、視界にふさふさした毛皮が追加される。
あれはたしか、鳴狐のお供の狐ではなかったか。


華様がしゃがみこんで、辺りを見回して。
そっと頭を撫でておられた。その表情は、記憶が無くなる前と
全くお変わりない、無垢な笑顔であった。


「・・・いけないな。これでは」


そうだ。記憶がどうということはない。
華様は、華様なのだから。


「楽しそうにしているね」
「!・・・」
「邪魔をして、しまったかな?」


失礼かとは思ったが、兄弟たちに話しかけるように声をかけてみた。
どんな反応をされるのだろうかと、内心少しドキドキしている自分がいる。
華様はやはり困った顔をされてはいたが、


「!・・・華、さ――」
「いち兄・・・に、会いに、来ました」
「え・・・今・・・」


記憶がなくなる前、たしか自分は「いちご」と呼ばれていた。
それが、今なんと呼ばれたのか。どうしよう。何故かわからないけれど。


とても、嬉しい。


「あ、の・・・いち兄が、御本を、持ってるって・・・キツネさんが」
「ああ、絵物語かな。」
「かりても、いい?」


照れくさそうに話す華様の髪を撫でて、
部屋にお上がり頂く。目を輝かせて本を選んでおられた。


ふと思ったのは、審神者様はひょっとして
華様がこうなることをわかっておられたのではないか?と。
いくらなんでも考え過ぎだろう。そう思い頭を振った。


けれど、妹が出来るというのは、新鮮で素直に、嬉しい。
記憶がお戻りになられれば、それも夢になってしまうだろうから。


だから、せめて。


「華。兄が本を読んであげようか?」
「!」


一時だけでも、この方の兄になっても


――――いいだろうか?


「うれ、しい」


小さな口で、小さな声で。
華様は確かにそうおっしゃった。
あまりに可愛らしい顔で笑むもので。


此方も顔が熱くなるほど照れてしまった。
人とは、真に不思議な生物である。



―――――・・・・(おまけ)


「華様、妹になるの?」
「し、しかし華様は我々の主で」
「華様がいいのならばいいのではないでしょうか?」
「それに、一兄が嬉しそうです」
「あの華様の呼び方、同じ一兄なのに何か響きがいいよね」
「俺達も真似ようかな」
「ぼ、ぼくらもお話にまざりに、いきますか??」
「いいなあ!いこうぜ!」
「おーい!華様!いち兄!」
「なあいち兄、華様妹になるなら様ってないほうがいいか?」
「先程話していたんだけども、様は取ってほしいそうだよ。許可ももらってある」
「妹、か。・・・」
「薬研?」
「いや、何かむず痒いなぁってな」
「薬研らしいな」



こうして、粟田口の妹誕生である。











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