「三日月・・・」
弱々しくも、響く声に顔を上げる。
これ程、俺を持ち揮った腕は細かっただろうか?
布団の隙間から伸ばされる手を、優しくとる。
顔の上には、薄い布がかけられていて、はっきりとは表情は見られない。
だが、手を握れば、微笑んだ気がした。
無粋な布だが、掟という鎖故に退けることは出来ない。
死期の迫った審神者は、顔を見せてはいけないのだとか。
人とは、兎に角奇妙で不思議な生物である。
「・・・・あの娘を・・・護ってやってほしい」
私の、最初で最後の、我儘。
「何を言う。我儘なぞ一度とて、聞いたことなぞないが」
「・・ふふ・・・沢山いうてきた筈・・歳を取ると、わからなくなるものなのか」
「・・・―――よ。」
「・・・・あの娘は、審神者の最後の・・血。それ以前に・・・私の大切な宝故な・・」
他の者らも、呼んで来てほしい。今から名を上げる者を。
「・・・承知した。少し待っておれ」
「・・三日月」
「何だ?・・・」
「・・・ありがとう」
「・・・・・嗚呼」
手は、離れた。
長谷部や・・あの娘の傍についてやってほしい。
一期、妹のように可愛がっておくれ。
石切丸。苦労をかけるけれど、親がおらぬ故な、頼んだ。
清光、泣くのはおやめ?おや、安定まで。最後まで、子供のようだねえ。
お前達・・・皆・・・・・。
「・・・・一緒にいれて・・・出会えて・・・よかった」
幸せだった。だが、一つだけ本当に心残りなんだ。
私の、可愛いたった一人の、孫の事。
「どうか・・・どうか・・・・」
護ってやってくれな・・・・・。
享年、―――歳。
審神者の血族の長が、この世を去る。
その夜は、とても静かで、三日月が綺麗に輝いていた。